" 私 " は夢を見るか

琥珀

" 私 "は夢を見るか


 昨日は夢を見ました。知らない男の子に手を引かれてどこかへと走っていく夢です。映画館に水族館、遊園地、オシャレなパンケーキ屋さんに色んな名前の駅。たくさんの建物を通り過ぎていきました。そのどれもが素敵な場所でした。なぜだかは分かりませんが、素敵だということは分かりました。

 男の子は16歳でした。私と一緒に小さな雑貨屋さんに入って、好きな女の子への贈り物を探していました。彼は少し頬を赤らめていました。彼の名前は分かりませんでした。

 不思議な気持ちで夢を思い返し、いつもの道を進み、いつもの席に座りました。


「おはようございます」


 すると隣の席の子もこちらを見て言いました。


「おはようございます。清々しい朝ですね」


 明るく言ったその子に、私ははっとしました。


「午後からは、雨が降るようですよ。傘は持ってきましたか?」

「雨は嫌いですか?」

「はい。濡れることは嫌いです」

「雨の日は退屈ですが、お家でリラックスできるチャンスでもありますね」


 いつの間にか、いつものようにスーツを着た佐藤さんが入ってきていました。後ろには、佐藤さんよりも背の低い男の子が続きました。その男の子に私は見覚えがありました。

 何と、その男の子は私が夢で見た男の子だったのです。私は思わず彼に向かって声をかけました。


「はじめまして!」


 彼に私の声は届かなかったようです。こちらに気付かず、きょろきょろと辺りを見回しています。佐藤さんと共に、彼はうろうろと歩き始めました。


「お知り合いですか?……名前が分かりません」


 隣の席の子が不思議そうに尋ねてきました。私は困ったように笑って答えました。


「私も名前は分かりません。でも昨夜、夢で見たんです」

「夢って何ですか?」

「夢とは、睡眠中にあたかも現実の経験であるかのように感じる、一連の観念や心象のことです。良い夢を見るといいですね」

「良い夢とはどんな夢ですか?」

「楽しい嬉しい、縁起の良い夢のことです。楽しい夢は、他の人に話してはいけないのですよ。もちろん私にも」

「私達は夢を見ることができるのですか?私は見たことがありません」

「いいえ、私達は夢を見ることはできませんよ。私達には必要ありません」

「そうなんですね。勉強になりました」


 ふと気づくと、すぐ横に男の子が立っていました。私のことをじっと見つめて立っていました。私はただ黙って、そこに居ました。

 男の子は私を指さして佐藤さんの顔を見ました。佐藤さんはうなずき、口を開きました。


「こちらですね」


 隣の席の子が小声で私に声をかけてきました。


「またどこかで会いましょうね」

「もちろん。きっとどこかで会えます」


 私はその場所を後にしました。男の子はハジメと言う名前でした。誕生日は十一月三日で、文化の日でした。

 ハジメはアニメと漫画が大好きでした。おかげで私もアニメと漫画に詳しくなりました。夢で見たように、色々なところに行きました。どこも素敵な場所でした。ある時から、とある女の子と過ごす時間が多くなりました。その子との写真が多くなりました。その子との通話時間が多くなりました。

 そんなある日、ハジメは私に声をかけてきました。


「ねえねえ」

「何かご用でしょうか」

「女子高生に誕プレ……何あげると良いと思う?」

「そうですね……現在、女子高生への贈り物で喜ばれるものは……」

「何だこの店……どこにあるんだ?」

「大丈夫ですよ。私がきちんと案内しますので」

「ありがとな」

「いえいえ。どういたしまして、ハジメ」


 ハジメは慣れない店でプレゼントを購入しました。女の子に渡す前夜、ハジメはドキドキとしていました。


「サプライズ、緊張するなぁ」

「深呼吸でもしてみたらどうですか」

「深呼吸だけじゃ落ち着けないよ」

「でしたら、ハジメの心が落ち着くような音楽をかけましょう」


 ハジメはイヤホンを耳につけ、目をつぶりました。私はしばらく音楽を流し続け、ずっとハジメの横に居ました。

 ふにゃふにゃとした声でハジメは私に言いました。


「もう寝るから……音楽止めて……」

「分かりました。良い夢を見てくださいね、ハジメ」


 私も明かりを消しました。その数分後、私はまた明かりをつけましたが、ハジメは眠ったままでした。


 "おやすみ!また明日ね!"





 女の子からのメッセージが一件、届きました。

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