ラヴクラフトを翻案する

レビュータイトル通り、怪奇小説の鬼才ラヴクラフトの小説を翻案したものがこの短編小説群である。
ラヴクラフトの文体模写に挑戦したものかと読み始めたらとんでもない。翻案どころかオリジナル味溢れる挑戦作であった。

舞台は赤牟市。
「闇に囁くもの」をモチーフにした「2020年に囁くもの」
「エーリッヒ・ツァンの音楽」をモチーフとした「エーリヒ・ツァンの繭」
「インスマウスの影」をモチーフとした「伊里洲の影」
「ダンウィッチの怪」をモチーフとした「ダンウィッチの侵略」

主人公たちは理知的な人物ばかりで出くわした出来事を馬鹿げた話と切って捨てる知性がある。それゆえに謎に対する煩悶が読んでいてわかる。

クトゥルフ神話は神話の奇矯さばかりが先行しがちであるが、実際に物語の本質を握るのは理性ある知的な主人公であると思う。
筆致の豊かさもさることながら、主人公の理知的な部分に注目したい。