第4話 ハクタク先生訪問す

「浩介くんは居られますでしょうか?」


今日は白沢さんは社務所から出て、久方ぶりにニットセーターとロングスカートという清楚にみえるような格好で浩介の家を訪問していた。


「はぁい」


インターホンの表示が映り、画面に柔和そうな顔の女性が出た。


「白沢と申します。すまぬが、浩介殿はご在宅だろうか?忘れ物を届けに来たのだが」


ハクタク先生は要件を述べる。とすぐにインターホンから、

「ちょっと待ってくださいね」

と応答がかかり、ドアが開かれた。



井田恵子はインターホンを切り、すぐに扉を開けた。

白沢という名字には聞き覚えがあった

浩介が良く話している神木神社の巫女だったはずと、記憶が告げる。


「はぁい。ちょっと待ってくださいね」


ドアを開けると、ドア横に身長が高いニットセーターとロングスカートの美人が居た。手には井田浩介と書かれたハンカチを持っている。


「初めましてぇ。浩介の母の恵子ですぅ」

「お初にお目にかかる。神木神社の権禰宜をしております、白沢です。浩介殿は居られるか?このハンカチを落としていったようでな」

「まぁ。申し訳ありませぇん。あの子ったら」


陽子の眉根が困った様にハの字になる。


「差し出がましいようだが、どうか叱らずに」


ハクタク先生は念を押す。落とし物など誰でもするのだから。叱られては浩介も後味が悪かろうとハクタク先生はあえて止めたのだ。


「そうですね。ありがとうございますぅ。あの…よろしければ中にどうぞ?」

「よいのか?」

「ええ。どうぞ」

「では」


こうして白沢さんは井田邸へと侵入することに成功したのである。


3


「あ、先生だ」

「浩介か。お前、ハンカチを落としていったろう?」

「わざわざ届けて下すったのよ?お礼を言いなさい」

「ありがとう、先生」

「まぁ、よい。以後は気を付けての。よいか?」

「はい」

「良し。息災のようで何より。ではお暇を」

「あら、まだきたばかりですし、もう少しゆっくりしていって下さ…」


母が止めていると、ただいまぁという声とともに姉の照が部屋に入ってきた。


「あーあ、疲れたあ。浩介に癒してもらおうっと」


そこまで、いうが早いか、直ぐに浩介を見つけ、抱きつこうとしたのだが


がし


首の後ろを恵子がつかんでいた。

そして、浩介を守るように、ハクタク先生は彼女の前に割って入った。


「なんなのよ?」

「お初にお目にかかる。浩介の姉よ。我は白沢。神木神社の権禰宜じゃ」

「退いて。邪魔よ。家族のスキンシップを邪魔しないで」

「いきなり弟に抱きつくのが、スキンシップとな」

ハクタク先生はくくくと圧し殺して笑う。


「そうよ。照ちゃん。お客様の前でみっともない。いい加減弟ばなれしなさい」

「なによ。お母さんだって浩君に甘いの知ってるんだから!お父さんに相手にして貰えないからって弟になびくなんてさいてー。お母さんがショタ好きなの知ってるんだからね!」

新たな情報をハクタク先生はゲットした。

「ふむ。ご母堂も、年下好みとな」

「私は違います!」

母親は否定するが、今は優先事項がひくい。

「まあ、それはおいておいて、だ。姉よ。浩介からいろいろ聞いておる。実物をみるまでは何もせんつもりであったが…まさか実行犯とはな。恐れ入ったわ」

「浩介。少し外にでておれ。これから我はお前の姉に説教があるでな」


こうして照vs恵子、ハクタク先生のペア戦が始まった。


4


「まず前提において、お前のやろうとしたことは痴女なのだ」

「痴女じゃないわよ!」

「照ちゃん…残念だけど、お母さんも…そう思う」

「なによ!ママまでぇ」

「ママも最近、照ちゃんの行動には納得いかないの。だから、お話しましょう」

(これ、長くなるやつだわ)

照は母親の声のトーンでわかってしまった。


「よし、さてお主がちじょ行為に及んで浩介に抱きつこうとした。これが論点じゃ。良いか?」

「照ちゃん?お返事して」

「はい」

「これは、相手が弟という立場を利用してのパワハラでもあり、セクハラでもある」

「なっ、そんなわけないじゃない!」

照は反論したが、ハクタク先生は先を続けた。

「加えて、家族内での行為は、近親相じや。変態の4コンボとは、恐れ入るのう」

「なによ。それ」

「パワハラ、セクハラ、強姦、近親相じゃ。麻雀でいえば4翻、8,000点 満貫確定じゃ」

「冤罪よ!あたしは浩くんのお姉ちゃんなんだから、当然の権利じゃない!」

「ほう。権利か。じゃが、その権利は弟が嫌がっていたか?が判断のもとになるぞ?」

「いいわよ!聞いてみなさいよ!」


絶対勝つ。この時、照は思っていた。しかし、その核心は浩介の


「このごろお姉ちゃん、うざい」


一言で砕かれた。完全KOだ。瞬殺。言い訳のしようがない。


「浩くん!?なんで!好きだっていってたのに!」

「だって、うざいんだもん。おねぇちゃん嫌い!」


続く、浩介の完全否定。


「分かったかの? これに懲りたら手出しするのはやめる事じゃ」

「いや。いやいやいや。絶対離れないわよ」

「それに、ほかの家の事にお説教なんてどうかしてる!頭おかしんじゃないの?」


照の反撃がでた。


「確かに、他家の事に口を挟まぬのが道理じゃ。じゃがこの件については、浩介の申し出があった故、ここに居る。分かるな?頼まれたからここに居るのだ」


相当にショックを受けて、ガックリとうなだれる照。勝敗はここに決した。


しかし、悪とエロはしぶとい。

このあと何度となく照は甦ることになる。

しかし、それはまた、別のお話。

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教えて!ハクタク先生! ヒポポタマス @w8a15kts

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