第021話:朋代 in 朋代
今朝も今朝とて、私はJKだった。ふへぇ。
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そういやこの頃、みんな茶髪にすんの流行ってたんだなー、と、一日経って、色々と冷静にモノを見られるようになってから、感慨深く教室を見回す。かくいう私も茶髪だ。茶髪っていうか金髪寄り。ブリーチ。髪傷むって。キューティクルは復活しないんだよ。キューティクル大事にしてよマジで。あと、頭皮も。肌の日焼けと同じくで、後年後悔するんだからさあ。
しかしみんな、ほんと、若々しいな。太ももあんなに出しちゃって。いや、私も今は出してるんだけどさあ。この制服ってのは、スカートを長めに穿こうとすると、なんだってこう、ダサーく見えるモンかね。仮にデザイナーがオッサンだとするなら、女子高生の脚が一番綺麗に一番可愛く見えるのが肌色多めになった時、とかいう波動方程式でも書いてデザインしてるんじゃないだろうかと勘ぐってしまうよ。まあ、せっかくだから、三十路じゃもはや犯罪になってしまって穿くことのできなくなった生足でのミニスカっていうのを、今一度この機に楽しんでやろうかーと開き直れてるくらいには若々しい精神を保てているのかなこの私はーと自分で自分を褒めてあげたくなっていたりするけれど。けれど。それでもやっぱり何か今の私ってニセモノっぽさがありそうというか、それって、事情を知っている自分自身だからなんだろうけれど、何だろ、養殖モンの鰻みたいな? 天然とは違うよなーお前ーみたいな? のを自分に感じて致し方ない。そういや、2001年くらいだと、まだスーパーで鰻が安く手に入ったりするんだろうか? この頃、食卓に並ぶものの値段はだいたい把握していたけれど、さすがに、鰻の値段がどうだったかまでは覚えていない。鰻、すっかり高くなっちゃったからなあ……、最近食べてなかったなあ……、鰻……、9月か、うーん、売ってるかな、鰻食べたくなってきた……。
はぁー、と溜息をついていると、やっぱり隣のリョーコに声をかけられた。
「どした? お腹痛い?」
「違うわー。そうじゃないわー」
朝っぱらから鰻が食べたくなってきた養殖モンの女子高生たる我が身を憂いて溜息をついている、などと解説することはさすがに憚られた。
「お尻の方?」
「方って何。方って。どっちか痛いのが通常営業みたいな人扱いしないで」
「じゃ何よ、昨日から憂鬱成分多めみたいだけど」
「あー……」
一時限目が始まる前に、訊いてみようか。昨日、ふとしたことで抱いた違和感について。
「昨日さ、リョーコ、私に、部活行かないのかって言ってきたよね」
「え? 言ったっけ? いちいち覚えてないよそんなん」
「言ったの。部活どうすんのかとかそんな」
「あーうーん、まあ、トモが昨日部活行かないで帰ったのは珍しいなーってそういや思ったっけ」
そう。やっぱりそうなんだ。このリョーコは、私のことを、毎日部活に行くのが当然とくらいに思っているらしい。私自身の自意識として、私は、高校時代においては帰宅部だったのに、だ。つまり。
「私って、部活入ってるんだよね」
「へ?」
「帰宅部じゃなくて。帰宅部で帰宅することを、部活に行く、と揶揄してくれちゃってるわけじゃないんだよね?」
「……」
ぽかーんと口を開けて、言葉を発しないリョーコ。わかった。よくわかった。その反応でよくわかったよ。みなまで言うな。言わないで。うん。ああ。そうか。そうなんだ。
……ここ、私の知ってる、「私の過去」じゃあないんだ。
「ねえ、リョーコ」
「……あ、え」
「おかしなこと訊くついでにもういっこ、いいかな」
「ん、え、おお」
がんばれ、リョーコ。あんまりにもショックなことを言われて脳が再起動中だと思うけど。がんばって言語回路を起こしてあげて。君ならできる。
「私、何部?」
「……バレエ部」
「……バレーボール?」
「バレエダンス」
「ひゃふえぇっ!?」
変な声出たよ! 一斉に私のことみんな見てきたよ! チャイムが丁度鳴ったよ! 丁度鳴らなかったら、私、みんなからどうしたのって追求されるところだったよ! 危なかったよ! どういうことだよこの世界の私よ!! 何をどう間違ってバレエ部よ!? 踊ったことなんか一度もないんだけどよ!?
「……ちょっとごめん、もいっこだけ」
と、授業が始まる前に、前を向いたまま、小声でリョーコに声をかける。
「私、昨日からなんか変だよね?」
「うん」
深く。ふかーーーーーーーく、頷かれた。そっすよねー。この時代に生きていた天然モンの朋代ちゃんなら、鰻のことを考えて溜息ついたりはしてなかっただろうなーと思うし。うん……。
彼女と彼女とそのまた彼女 ピュシス @bcphysis
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