二つの異世界とスクエア

メネさん

EP1:異世界

俺の名前は“あかつき 天嵐そら”。どこにでもいる、ごく普通の高校生だ。

でもそんな普通な高校生である俺も、一つ、誰も持たないであろう物を持っている。


“星々の本棚”


俺は勝手にそう名付けている。

数多あまたの星々のうちの一つが本となり、俺の元へ降りてくる。それを読めば、解決したい物事の“最適解”を得ることが出来る。

ただ、いつでも見れる訳では無い、条件は不明。わからない、だから、この力に頼るなんてことはしない。

そんな中、今日というこの日、俺はその“星々の本棚”を見ていた。


「...いつぶりだったかな...1ヶ月?」


数多の星が輝く中に俺はぽつんと立っていた。そして一つだけ強く光を放つ星にへと手を伸ばす。その星はやがて本にへと姿を変え、俺の元へ降りてきた。

俺が手にした本は1冊の古い本、そして中身は...


「...なんだこれ?小説?...いやでも...」


この本には、みんなが好きそうな異世界物語がより詳しく書かれたものだった。

読めば読むほどにその内容は物語のように見えて、俺の望む最適解には程遠かった...訳では無いのかもしれない。


「...なるほどな、そうか、そういうことか。」


俺は最後のページに書かれた一文を指でなぞる。


『選ばれし者、正方形スクエアにある二つの世界を行き来する者ならん』

「望んだ世界...ってわけか。」


望んだ、望んでしまった。こんな退屈な世界を抜け出して、面白いものを見たいと...

それが何を考えたのか、本棚が最適解を与えてきた。それはつまり...


「あるんだな、こんな世界が...そして、行けって言ってるわけか。この本は...」


パタンッと本を閉じる。

きっと危険なのだろう、最適解には“行け”とは書いてなかった。選択できるのだろう、行ってもよし、行かなくてもよし...と。

しかし俺の答えは決まっている。もしもこの世界があるのなら...


「行ってやるよ、こんな経験、滅多にない!」


そう言った時、周りが白く包まれる、夢の終わり、俺はもうすぐ目を覚ます。

目を覚ませばきっと、見たことのない世界で横たわっているだろう、なぜかそれが楽しみで仕方ない。


「さぁ...行こうか、未知の世界に...異世界に!」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

白い世界が消え、俺は目を覚ます。まず見えたのは青空、そして空飛ぶ謎の生物。


「...ほんとに来たのか...」


違和感は特になかった。最適解が全てを記していたからだろう。


「って...俺ってまさか、寝間着!?...ってことは無いか...よかったよかった。」

「この辺よね?」

「えぇ、この辺がピカーッと光ったわ。」

「おっと...やべっ!」


ササッと俺は木陰に隠れる、最適解で得た情報の中には“この世界には男性が少数”だということ、そして“女性の半数が男性を嫌っている”こともあった。つまりそれは、下手すれば俺も殺されることを意味している。


「ねぇ、リーン?やっぱり帰らない?誰かのいたずらだったのよ、きっと。」

「ダメよ?それにもし男性だったとしたら私たちの街が危険でしょ?」

「(おいおい、まじかよ...間違いなく出会ったら殺されるぞ俺!)」


なんとか隠れられているものの、もうすぐでこの辺りも探し始めるだろう。そうすれば見つかるのは時間の問題となる。

そして今の俺は手ぶらだ、強いていえばこの世界のちょっとした情報くらい。こんなのでどう勝てと言うんだ!


「うーん、やっぱりいたずらだったんじゃない?」

「いやいや、こっちはまだ探してないわよ。」

「(...やばいな、間違いなくこっちに来ている。それに彼女ら、剣持ってたぞ?)」


命の危機!絶体絶命!もうダメだ、と諦めたその時、視界が白く包まれた。


ザザッ...ザザー


まるでテレビの砂嵐が起こったように、視界が白くなり、目を開けた時にはもう、俺は違う場所にいた


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「...タイミング悪いな。」

『助かる可能性があると思うだけでも感謝した方がよいぞ?』

「は?」


俺の目の前に幼い少女がいた。周りは星ばかり...今までこんな人はいなかった。


「えっと...あんたは?」

『儂か?儂は本の監視者じゃよ、暁 天嵐。』

「本の...監視者?」

『うむ、ちなみに年は1000を超えとる。』

「まじで!?」

『まぁ長年、この本棚の本の管理をしておるからの。っと時間がないんじゃったな、ほれ、あそこじゃ。』


彼女が指を指す方に、強く光を放つ星があった。

俺はそれに手を伸ばす。そしてその星は俺の意思に応えるかのように姿を本に変え、俺の元へ降りてきた。


「...ってそうだ!名前!...あれ?」


気が付けば彼女はいなくなっていた。いつも通り、ここには俺1人。

彼女は1000を超えていると言っていた。となれば俺がこの夢を見るようになるずっと前からここにいたということになる。


「...また今度、ゆっくり話せるといいな。」


聞きたいことが山ほどある。でも今はそれよりも...


「俺が助かる方が先だ。」


パラパラッと1ページ1ページ、めくっていく。不思議と内容は一度読んだことのあるかのように頭に入ってくる。

そして俺は今“最適解”を得たのだ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「ん?そこに誰かいない?」

「(今だ!)」


バッと俺は二人の少女のいる方向に走り出す。

これが俺の得た最適解。まずは彼女達に俺が男だということを理解させる。


「え!?ほんとに人がいた!」

「しかも...男!?」

「ビンゴだ。だが...」


そして俺はガっと急ブレーキ、そして左に思いっきりジャンプ!

足場となるものはなにもない、だが思いっきり飛べば、俺の着地地点にあるのは...池だ。

そこまでひどい怪我はしないだろう...というのが最適解だった。


「だろうってのが、地味に怖いんだけど...」

「この先には...あ、池!」

「この高さを飛ぶとか、すごい度胸。」

「ふぅ...声的にもう追って来そうにないな、とりま、降りたらさっさと隠れますか。」


俺の考えが纏まったと同時に目の前には池が見えていた。そして


ドボーンッ


俺は池にダイブ、怪我一つなく無事に近くにあった洞穴へと身を隠した。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ポツン...ポツン...

水滴が地面に落ちる、その音しかしない。

俺はこの洞穴にかれこれ1時間近く身を隠していた。


「さてと...これからどうしたものか。」


行く宛もなく、食べるものもない。このままでは餓死することは間違いないだろう。

男性が少数...ってことは近くに男性だけが住む街があるのだろうか?


「...あっても行きたくないな。とは言え、池にも魚はいなさそうだし...木に木の実があるかと思って見てみれば、1つもない...どうしたものか...男性だったら、街が危険...か。」


ふと1人の少女が言っていた台詞を思い出す。確か、リーンと呼ばれていただろうか。

あれは何を意味しているのだろうか。男性といたらなにか不具合でもあるのだろうか。

そこまでは最適解でも分からなかった。


「はぁ...謎が謎を呼ぶな...とりあえず、食料の確保をしないとな。今日は良くても明日が辛そうだ。」


そして外に足を踏み入れた途端、違和感を感じた。さっきまで感じなかった違和感を、今になって...


「...そうか、なるほどな。」


一つだけ、謎が解けた。先程まで感じなかった違和感をなぜ今になって感じたのか。

それは正方形スクエアにある。


「...となると、近くに...あったあった。」


俺は1本のどこまで続いているのかわからない柱を見つける。

この柱は四本あり、正方形スクエアを作っているらしい。なぜその中にだけ街があるのか、そしてこの辺りにはなぜ魚はおらず、木の実が無いのか。


「その理由は、この柱の外は危険な魔物か何かが住んでいるから、或いは作物が育たず、人が住むには適してないから...かな?」

「正解よ。」

「っ!?」


声の主はさっきのリーンと呼ばれた少女だった。後ろにはもう1人の少女もいる。

わざわざここまで降りてきたと考えると、俺は洞穴の外から出なければ良かったのかもしれない。


「さっきの光、あれはなに?」

「光?あぁ、なんか言ってたな、光ったって...残念ながら知らないよ。俺だってこの世界には来たばかりだからな。」

「何を言っているの。この世界に来たばかり?そんな人がなぜここに池があることを知っているの?」

「あー、それは...なんだ...あー...」


理由が見当たらない、本棚のことを言っても恐らく笑い飛ばされるのが落ちだ。

となれば...逃げるが勝ち...いやそれでもダメだろう。さっきは偶然不意をつけたからこそ成功した。ただ今回は違う、2人から感じるオーラがビシビシと伝わってくる。


「...もういいわ、答える気がないのならとっとと殺してしまえばいいだけの事。」

「だから逃げたのに...はぁ、最悪...ん?」

「なに?今更言う気になったの?だけどもう遅いわよ?」


リーンの言葉は俺には届いていなかった。なにか変な視線を感じる。まるでネズミが穴から出てくるのを待っている猫のような...待てよ?


「俺の考えに正解だと言ったな...」

「ん?えぇ、言ったわよ?それがなに?」

「それは...どっちだ?」

「え?」


もしも後者が正解なのならば、こんな視線は感じない...もしも前者...或いは両方が正解だというのなら...この予感は...

バッと上を見上げる。そして目にする。なにか大きなものがこちらに近づいていることを...


「上!上!」

「そんなハッタリが通用すると思う?」

「くっそ...こんな時に...」


間違いなく何かは近づいてきている。どうする、きっと彼女達は俺の言葉なんて聞こうとしない。このままでは全員食べられて終わりだ。

こんなときに限って本棚は見れない。

...待てよ?

もしも...もしもだ...男性が少数な理由に...モンスターをおびき寄せる何かがあるとしたら?...

可能性は低い...それにかなり危険だ。だけどやるしかない。


「あ!こら!どこへ行く。」

「ねぇ、リーン、なんであの人、あんな焦ってるのかな?」

「死ぬのが怖いだけじゃないの?」

「本当に...それだけなのかな?」



「はぁ...はぁ...とりあえず、ここまで離れれば...なんとか...大丈夫か?」


死ぬのはそりゃ怖い、でも巻き添えなんてゴメンだ、死ぬのは1人でいい。


「...っと、丁度来たな。」

グギャァァァァァァアアア


俺の目の前にいたのはとてつもなく大きな“鳥”だ。モンスターを狩るゲームの最初の方で出てきそうなやつに似てる気がする。


「こんなときに限って本棚は見れないし...俺の手持ちは何も無いし...ついてないなぁ...」


1歩、また1歩と大きな鳥は近づいてくる。背を向ければ死、止まっても死。一定の距離を保ちつつ、逃げるしかない。


「ははは、こいつ丸焼きにしたら何日持つかね...食いたくもないがな。」

クギャァァァァアア

「っと悪い悪い、怒ったか?」

ク...クギャァァァア...ギャァア...


突然大きな鳥は俺を食べようとクチバシをパクパクさせながらこちらに迫ってくる。それに対する俺は全力でバック走。いづれ追いつかれる...のが俺の作戦だ。


「もうちょい...っと着いた。」

クギャァァァァァァア!

「よっと...」

ギャア?ギャァァァァア!

「鋭いクチバシってのは、そういうのが弱点なんだよな。」


大きな鳥は木にクチバシが刺さり身動きが取れない状態になっていた。

ゲーム、やってて良かったと思う瞬間だったと思いながら俺は更に距離を取り、次の木の場所へと向かう。


「ねぇ...あの人、クックから逃げてる、逃げれてる。」

「嘘...何も道具を使わずに...どうやって。」

「でも...そのうち捕まっちゃう。」


1本、また1本と次々と木を盾にし、俺はとある場所を目指していた。

とは言え、そこまで体力が持つわけでもなく...


「うおわっ!?」


その場でコケるわけだが...

ザクッ...


グギャァァァァァァァアア!

「なんだよ、どちらにせよ殺すんなら、俺が食われた後でもいいんじゃないのか?」

「うるさいわね、殺すわよ?」

「はいはい、悪うござんした。」


リーンが後ろから大きな鳥(クック)を撃退、変な喚き声を上げて、動かなくなった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「あー、疲れた疲れた...」

「凄いよ君、どうすればあんなアイディアが!?」

「ん?俺がここに来る前の世界にな、あれ...クックだっけ?それと似たような敵が出るゲームってのがあってな。」

「ゲーム?」

「なに?ゲーム知らないのか?」

「うん...なにそれ」

「ゲームっていうのはな?」

「嘘を教えるのはやめて、私の大切な家族なんだから。」


そう言ってリーンは会話を遮ってくる。

この世界には男性が嫌いな女性が半数、でもそうでない人もいるようで、なんやかんやで口論が続いているらしい。

そしてリーンは男性を必要としないという意見の方に、対するもう1人の少女“ティアラ”はその逆、男性を必要とするという意見の方にいるらしい。なんでも家族だからこそ一緒にいる...らしい。


「嘘じゃないんだけどな...んま、なんでもいいや、助けてくれてサンキュ。」

「礼などいらないわ、どうせ後で殺すのだもの。」

「ちょっとリーン!」

「はは...はははは...」

「何がおかしいの?」

「いやはや、仲いいなって思ってな...安心しな、俺はお前が知らないうちに死んでるだろうからさ。」

「どういう事?」

「どういうこともなにも...っとこれ以上はノーコメントで。」


俺に居場所はない、だからきっとそのうち餓死してジ・エンド...そう言おうとした、でもしなかった。なにせ、男性必要軍の1人がここにいるのだから。


「んじゃ俺は行くよ。」

「え?どこに?」

「んー...わからん。でも1つだけ教えといてやるよ。」

「なによ?」

「俺はこの世界をもっと見たい、だからもっと外の世界に向かう。それだけだ。じゃあな。」


そうして俺は彼女達に背を向け、歩き出す。正方形スクエアがあるのはきっとあの街だけだ。でももしも...もしも旅をしていけば、何かあるかもしれない、こんなモンスターだらけじゃない場所が...あるのかもしれない。

そして最適解が教えてくれたもう一つの世界...きっとこの世界のどこかに入口がある。

そう思うと...わくわくする


「待って!」

「うん?」

「ティアラ?」


声をかけられる、俺に声をかける人物は2人しか居ない。リーンかティアラだけだ。


「私も行く!連れてって!」

「何を言ってるのティアラ!あなた外の世界がどれだけ危険か授業で習ったでしょう!?」

「習ったよ、でも私も見てみたい、この世界を...それは外の世界も、もう1つの世界も一緒!」

「...俺は他人を巻き込むつもりはないんだが...」


巻き込むつもりは無い、いや巻き込めない、俺といれば間違いなく早死する。茨の道を進もうとしているようなものだ。

だから連れていけない...そう言おうとした時...


「茨の道っていうのもわかってるよ!でも、夢だから、外の世界を見るって!」

「...夢...ふっ...ははは...はははは...夢か!そうかそうか...」


夢か、そう言えば俺はこの世界には来たことで夢を投げたんだったな。ならせめて...誰かの夢くらい、叶えてやりたい。


「わかったよ、勝手にしてくれ。」

「ありがとう!やったー!じゃあまずは準備だね!私の家に行こう!」

「俺は待ってるよ、俺が入ったら色々まずいだろ?」

「そうかな?」

「...はぁ、ティアラはこうなると、いうことを聞かなくなるんだから...あなた、名前は?」

「ん?俺か?俺はな、暁 天嵐だ。」


初めて、人に名前を名乗った気がする。まともに名乗ったことのない名前...今ここで、初めて...


「天嵐ね...いい?もしもティアラに何かあれば私があなたを殺すからね?」

「怖いなぁ...んま、任せてくれよ。」


これはたった1ページに過ぎない。始まってもいない。この世界は分からないことだらけだ。でも、だからこそ面白い。だからこそ、俺が望んだ。いつこの物語が始まるのか、そんなの分からない、でももし...俺がこの物語を描くのだとしたら最初はきっと、こう描くだろうな。




『俺はまだ知らなかった。』...とね。

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