第4話 問い

外観、内観ともにモダンな落ち着いた空気を醸し出している喫茶店。店主のセンスや良さが伺える。しかしそれは、中でこと切れたように倒れている不良達を除けばの話である。

だが、逆にそのキャップが、彼の口から語らた内容と上手く合わさり、店内の空気を異様なものとしていた。

彼は話に一区切りつけ、テーブルの上のコーヒーに手をつけた。

彼の行動により、話に聞き入っていた彼女は言葉を話す感覚を取り戻す。

「にわかには信じられない話ね。この目と耳に事実を突きつけられてもまだ、頭がそれを理解しきれていない感じ。」

そう聞くと彼は、おもむろに右手のカーディガンとシャツの袖を捲り始めた。無論店内の温度は適温に保たれ、体温調節によるものではない。窓から差し込む茜色の夕陽も相まって、彼の右腕はとても綺麗に見えた。異常なほどに。それは洋服屋の展示モデルの腕のようにも見えるが、それとは反して、強い生命力のようなものが感じ取れる。

しかし、ちょうど肘を超えたところからは逆に、特殊メイクを思わせるような傷がいくつもあるのだ。まるで二種類の違うプラモデルの腕をくっ付けたようだった。

彼女の戸惑う様子をみて、彼はまた話し始める。

『事故にあった直後、俺の右腕は確かになかった。だが、病院で目を覚ました時には腕があったんだ。当然俺の腕を施術したり、移植したのでのない。救助された時にはあっというのだ。』

淡々と話を続ける。

『事故にあい、意識を失っている間に俺は、得体の知れない腕と知識、さらにこの不良共をぶっ倒したこの力が俺の中にあった。

さっき不良達が殴り合いを始めたのは、この右腕から奴らの生命プログラムに潜入し、闘争本能と競争意識のみの生命に上書きしたからだ。この右腕が鍵をあけ、得た知識で書き換える。これがやつから与えられたものだ。』

彼は話を終えるとまた、コーヒーを口に注いだ。

「それをなんで私に?」

質問ばかりで彼に申し訳ないと思いつつ、彼の返答を待つ。コーヒーのカップを皿に戻し、

『俺は行き詰まっている。生命の永久サイクルの作り方をあの日から考え続けているが、思いつく可能性は全て潰れてしまう。人ってものは行き詰まると、誰かに頼ってしまうように作られてるんだ。さっきお前の解答に可能性を感じたから初めて人に頼るという方法をとってみただけのことだ。』

その言葉を聞いて彼女の鼓動は高まった。普通は好きな人に頼られれば、誰もがそうなるだろう。だがこの場合は違う。宇宙規模とも言えるスケールの問題の解答者に、彼女は選ばれてしまったのだ。外では野鳥が夕暮れを知らせていた。

『率直に問う、どうすれば命は続いてく?

足りないもがあるのか、それとも不要なものがあるのか?お前の答えを聞かせてくれ。』

彼はそういうと、残っているコーヒーを一気に飲み干した。

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感情 山お @kumahiroto

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