儀式書。。。

紀之介

この儀式、やるつもりなの?

「…この怪しい文書は、何?」


 霜月さんがテーブルの上に置いた紙を、如月さんは横から覗き込みました。


「じいちゃんの秘蔵品」


「─ 『雪乞いの仕方』って、書いてあるけど…」


「その儀式書みたいなんだよねぇ」


「必要なものは…桶と土と藁?」


「水を張った桶に、土で作った舟を浮かべて、藁人形を乗せるんだって」


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「土で作った舟って、水に浮くかなの…」


 顔を上げた如月さんと、霜月さんの目が合います。


「コンクリートで作った船、知らない?」


「そう言えば…そんなの、あったかも」


「石みたいなコンクリで作れるんだから…土でも作れるじゃないかなぁ」


「どうやって土を、舟の形に固めるの?」


「水を混ぜて、泥にする」


「浮かべた瞬間、崩れると思う」


「うまく作れば大丈夫だよ。成功例もあるし」


「…カチカチ山はお伽噺だし、結局沈んでるから。」


「じゃあ粘土?」


「うまく作れば、浮く様な気はするけど。。。」


----------


「桶はあって、土は何とかなるから…あとは藁だねぇ」


 再び紙に目を落とした霜月さんを、如月さんは横目で見ました。


「ネット通販で売っる藁人形、買えば?」


「アレを買うのはねぇ… 何か呪いとか、掛かかっていそうだし」


「だったら、その辺をウロウロしてみたら? 馬でも連れて」


「…逆わらしべ長者?」


「まあ、効率を考えたら…ミカンから始めるのが無難かもだけど」


「藁しべが1本手に入っても、人形は作れないしねぇ。」


「ホームセンターで、売ってないかな」


「藁人形用?」


「─ 園芸の敷藁用。」


「ああ! そう言う使い途の方が、一般的だよねぇ。。。」


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「もしかして…この儀式、やるつもりなの?」


 訝しむ如月さんに、霜月さんは微笑みます。


「当然、一緒にやってくれるよね?」


「やっても、何にも起きないから」


「雨乞い成功の秘訣は…」


 霜月さんは、如月さんに顔を近づけました。


「─ 降るまでやめない事、なんだよ」


「え…?!」


「雪乞いも…降るまでやり続ければ、必ず成功するから。」


「…ひとりでやって」


「天気予報確認して、雪が降りそうな日にやれば…より確実だよ?」


「降雪が判っている日に雪乞いして雪が降っても、何にも嬉しくないんだけど。。。」

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