第7話 伝説

「ここも手狭になったから、引っ越すか」

 本丸『結ノ杜』の協力者は縁側に座りながらぽつりと呟いた。

 擬人刀の数は今や三十を超える。

 今いる本丸では部屋が足りなくなったのだ。

「今度は女協力者が近くに住んでるところがいいなぁ~」

『呑気なことを仰いますね。協会が今大騒ぎなのに』

「ん? いたのか」

 協力者は振り返るとそこにはパタパタと尻尾を振るハリネズミがいた。

 ハリネズミは尻尾を振るのを止め、協力者の隣に立つ。

『貴方が聖騎士を倒してしまったことで、各地で協力者が聖騎士を倒すべく鍛えはじめたので、協会は止めるよう指示をして大騒ぎです』

「へぇ~、止めなくてもいいじゃないか。擬人刀じゃなくて、協力者が倒したっていいだろう?」

『協力者が戦闘するなど、前代未聞。刀剣たちの立つ瀬がありません』

「ふーん。それだけか?」

『ええ』

 協力者はしばらく探るようにハリネズミの様子を眺めていた。

 だが、毛むくじゃらの顔など、表情が分かるはずもない。協力者は諦めて視線を外した。

「――俺の推測を聞くか?」

『喋りたければどうぞ。私はここに座って、風を感じているだけですので』

 そうして、ハリネズミは猫のようにその場で丸まり、目を閉じた。

 それを横目でちらりと見て、協力者は口を開く。

「聖騎士は協会が派遣したんだろう。そして、俺達を襲っていた」

『…………』

「おかしな話なんだ。俺たちの先回りが出来る時間移動者なんて、他にそうそういるわけがない。とすれば、聖騎士は協会の人間だ。そう仮定して、何故、協会の人間がわざわざ身元を隠し、第三の勢力として出てこざるをえなかったのか。それは粛清の停滞のせいだ。――周囲の協力者を見てもやる気のない奴らが多い。新たに入った協力者もはじめの頃は懸命に敵を倒しに行くが、やがて無理に出陣しなくてもいいとなると、日常を演じたくなってくる奴らがいる。内番や訓練、コレクターに励む者など、本来の目的から逸脱するようになる。それを阻止するための聖騎士なんだろう? 新たな環境を提供し、程よい刺激を与えて、兵への敵対心を復活させる」

『…………』

 協力者の言葉に、ハリネズミは何も答えない。ただ目をつむり続けた。

 それに協力者は鼻を鳴らし、立ち上がる。

「協力者で十分なことを何故、擬人刀にやらせるのか。俺には分からないがな」

『それが、時空との契約なのですよ』

「?」

『時間移動の制約で、多くの決まり事があります。協力者は強くなりすぎる。その為、協力者に刀は持たせないことを条件に時間移動が許可されています』

「それが破られれば?」

『貴方は一生時空間の中に閉じ込められる』

「……おー、怖い怖い」

『今回のことは大目に見ていただけると許しがでました。これは警告です。今後、一切の戦闘をせず、また、この件を他の協力者に言いふらさないよう。自分が聖騎士と戦い、倒した協力者であるということを明かさないようお願いいたします。でなければ、貴方の身の保証は出来かねます』

 ハリネズミは目を閉じたまま。

 これはそういう会話なのだ。

「真実は永遠に闇の中ってね。でも、人の口に戸は立てられぬ。人伝に話は広がるぜ?」

『協力者に名前はない。どの協力者かは協会にしか分かりません。人物がいない話はやがて噂となり、噂はいずれ風化する。風化した噂は伝説と言われる。伝説とは真実がどうか分からない、お伽噺。お伽噺を本気にする馬鹿は、どこにもいませんから、捨て置いても問題ありません』

「また極論だな。まっ、そっちが見逃してくれるってんなら、それでいいさ。まだまだこの世界を楽しみたいからな。あっ、引っ越しの件、よろしくな」

 ひらひらと手を振り、協力者は廊下を去っていく。

 ハリネズミはそこで目を開き、ついっと協力者を眺めた。

『――私は厄介な方の担当になってしまったようですね』

 目を細め、少し楽しそうにハリネズミは微笑んだ。





 そして、ハリネズミの言った通り、噂はやがて風化し、協力者は風化した噂の中で、伝説の存在となる。






END

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人生BADEND迎えた俺がその後伝説になる話 都宮 アキ @tomiya_aki

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