第6話 合戦
「出陣だー!!!」
障子をぴしゃりと勢いよく開き、よく通る声で宣言した。
それに部屋で思い思いに過ごしていた擬人刀たちが目をぱちくりとしていた。
「今から、ですか?」
乱藤四郎が可愛らしく小首を傾げる。
それに「ああ!」と協力者は頷いた。
「今から、仇を打ちに行く。敵は聖騎士だ!!」
声を張り上げる協力者。
皆、その様子に尋常でないものを感じ、顔を強張らせていった。
「これは、友の擬人刀の弔い合戦だ! 今から名前を呼ばれたものはすぐに出陣の準備をせよ! ――三日月宗近!」
「うむ」
「乱藤四郎!」
「はーい」
「鯰尾藤四郎!」
「はい」
「次郎太刀!」
「はいよ!」
「岩融!」
「任せろ!」
「そして、隊長に蜂須賀虎徹!!」
「は、はいっ!!」
「以上、六名は俺に続け! いくぞ、京都へ!!」
『ハッ!』
選ばれた擬人刀六人と協力者一人は京都へと旅立つために、部屋を出た。
向かうは家の奥。
時空間移動装置が設置されている部屋である。鶴の絵が描かれた襖の前に辿り着いた七名の表情はどれも真剣なものだ。
協力者は襖に手を当て、朗々とキーワードを宣言した。
「“開門! 戦国の記憶より呼び出でよ、京都『椿寺』!!”」
目の前の襖が自動的に開かれる。中は真っ暗だ。そこへ足を踏み入れる。
空気が変わる。
直後、そこは京都になった。
『協力者、ここは今、協会が調査している時代です。すぐに撤退し、違う時代にした方がいいでしょう』
いつの間にかハリネズミ姿の協会職員が協力者の足元でそう忠告をした。
それを協力者は鼻で笑った。
「知ってるよ。だから、来たんだ」
『なぜ?』
「――聖騎士って言うそうだな? 新手の敵の名前は」
ハリネズミの質問をはぐらかし、逆にそう問えば、ハリネズミは押し黙った。
ハリネズミの中身は、賢く、敏い女だ。
協力者がなぜこんな行動を起こしたのか、察したのだろう。
『――ええ、そうです。今、この時代に潜伏しているのが分かっています。擬人刀たちを傷つけないためにも、この時代からはしばらく離れたほうがいいでしょう。すぐに撤退を薦めます』
「はっ! 断る!!」
『協力者、泣きを見るのは、貴方なんですよ?』
「俺が? まさか! 泣きを見るのは奴らの方さ。この手で奴らをぶっ潰してやるよ」
もう何を言っても無駄だ。
協力者がそう断言する姿に、ハリネズミは『はぁぁぁぁぁ』と溜息を吐いた。
『……忠告はしました。あとは好きにしてください』
「ああ、そうさせてもらうさ」
『まあ、必ず聖騎士と出会うという確証もありませんし、何事もないかもしれません』
ハリネズミの挑発的な言葉を協力者は受け流し、京都の街を歩き始めた。
不穏な空気を携えたままの一行は途中正道神教の兵と応戦しながら道を進んだ。一体、何体の敵を倒しただろうか。一向に聖騎士らしき姿は見つけられなかった。
『ほらほら、無駄です。もう戻りましょう。このまま夜戦に入り長引けば、貴方のバッテリーが無くなりますよ』
「いや、戻らないね。というか、戻る必要がない」
『は?』
「やっとお出ましだぜ。敵さんがな」
協力者の言葉に反応するかのように、建物の陰から武士姿の人型が出てきた。禍々しい空気を持ったそれは明らかに普通の人間ではない。また、この世界で普通に動ける時点で、この時代の人間でないのが分かる。兵と戦闘を行う際はその時代の人間に危害が及ばないように時空間を歪め、その時代の人間は例外なく、時を止め傷つかないように守っているのだ。その為、この空間で動けるのは自分たちのような例外の存在だけである。
《また、イブツか……》
先頭にいた武士がそう言った。
確定だ。
協力者は目を細め、スッと手を挙げた。
「――ヤれ」
協力者の命に呼応する擬人刀たち。
瞬時に擬人刀たちは移動し、戦闘の武士姿の人影に斬りかかる。
代わる代わるその敵に斬りかかるが、しかし、すべてが防がれ、擬人刀たちは体勢を立て直すために、また瞬時に後ろに下がる。
強いのは明白。
協力者もそのことを理解し、作戦を彼らに伝える。
「陣形を“三ノ陣”に展開! 一気に畳みかけろ! 長引かせるな!!」
『ハッ!』
声があちらこちらから聞こえ、そして、姿が見えなくなる。陣形を展開したため、あちらこちらにいる敵に各々が対戦しているのだ。
協力者は鋭い目付きでその場で刻々と変わる戦況を見つめていた。
――乱藤四郎は、その身軽さを利用し、敵の懐に入り込み、的確に急所を狙う。可愛らしい外見とは裏腹な鋭い剣撃を幾度も繰り出していた。
「ボクを甘くみないでよねっ」
クリティカルヒットを幾度となく重ね、相手の刀装を剥ぎ取る。
意思を持たない人形たちは動きを止め、その場に崩れ落ちた。
――その他にも、岩融は縦横無尽に駆け回り、次郎太刀は酒を飲むような余裕な態度を見せながら相手の息の根を容赦なく止め、鯰尾藤四郎は剣舞のような剣技を見せ、三日月宗近は超然とした微笑を浮かべながら敵を斬り捨てた。
その中で一際目立つのは蜂須賀虎徹である。まずなによりその色である。黄金の甲冑姿の彼は誰よりも目立つ。というか、戦場でその色を着る馬鹿は彼しかいない。もちろん、敵は彼に集中する。だがしかし、蜂須賀虎徹という男はそれを物ともせず、あっさりと対応する。時には避け、時には防ぎ、時には攻める。
彼とは一番長く付き合っている。
彼は、このメンバーの中で誰よりも強かった。
レベル数値で言えば、全員がレベルマックスの九十九レベル。いわゆる、『完スト』状態。
協力者は彼らを信頼しており、まったく心配していなかった。
勝利の二文字を確信し、悠然と構えていた。
だが、やがて旗色は悪くなる。
目測を見誤ったのだ。敵を一番侮っていたのは協力者自身である。
多勢に無勢。
敵は大量の擬人刀を携えていて、それらを投入。
やがて疲労から裁ききれなくなり、こちらの陣営は崩れ始める。
はじめに傷を負ったのは乱藤四郎だった。それから鯰尾藤四郎、岩融、次郎太刀、三日月宗近が倒れ伏す。破壊は免れてはいるが、それも時間の問題だろう。
味方が倒れたことにより、敵の一人が協力者に向かって斬りかかる。
それに逃げもせず、ただ、その攻撃を見ていた協力者の前に、蜂須賀虎徹が壁となって守った。
「主! 逃げろ! ここはもう駄目だ!!」
蜂須賀虎徹はそんな弱音を吐き、なんとか目の前の敵を斬り伏した。
協力者に振り向いた蜂須賀虎徹は、よく見ればあちらこちらが傷だらけだった。甲冑も破損し、程度としては軽傷。それに協力者は眉を顰めた。
「俺に命令する気か?」
「そんなことを言ってる場合か?! 実際問題、これは負け戦だ! もうこれ以上の進軍は出来ない! 撤退すべきだ!」
「俺はなんと命じたか覚えてるか? ――ヤれ、と。そう命じたはずだが?」
「覚えてる! だが、主が傷つくのを見ていられない!」
「俺が傷つく? 馬鹿な奴だ」
「主!?」
協力者は蜂須賀虎徹の前に出る。
それに蜂須賀虎徹は慌てる。協力者を庇うために、咄嗟に協力者を抱きしめた。すると腕の中の協力者が暴れる。
「馬鹿野郎! 放せ!!」
「放さない!!」
そんなやり取りに敵は待ったをかけるはずもなく、一斉に襲いかかる。
敵の一人の刀が蜂須賀虎徹の背中をばさりと切った。
「グッ!!」
「おいっ!」
「がはっ!!」
「俺を放して戦え!」
「嫌だ! はぁはぁ、主のためなら、たとえこの身が朽ち果てても、俺が守るんだ」
「………………」
敵の猛攻撃。
それに蜂須賀虎徹はただ耐えていた。
主を守るため、主の体に覆いかぶさって、自身を盾とする。誰がどうみても重傷。すぐに手当てをしなければいずれ破壊されるだろう。
蜂須賀虎徹の体の下でもがいていた協力者はここに来て焦り、じたばたと手足を動かすも、まったく身動きが取れなかった。
もう駄目だ。そう思った時に、「ハッ!」という裂ぱくの声とともに、三日月宗近が蜂須賀虎徹に群がっていた一体、また一体と敵を斬り捨てた。
「早く逃げろ!」
三日月宗近も蜂須賀虎徹と同じことを言った。
血だらけの蜂須賀虎徹の下で協力者はそれに頭に血が上った。上に乗ったまま動きを見せない蜂須賀虎徹を蹴り飛ばし、自分の上から退かす。そして、蜂須賀虎徹の腰に下がっている鞘から刀を引き抜いた。
「なにをっ!?」
三日月宗近は驚きの声を上げる。
協力者がそちらを見れば、彼は左腕をだらりと下げていた。きっと、折れたか外れたかして、使い物にならないのだろう。額からは血がたらりと垂れていて、三日月宗近はとても情けない姿をしていた。
「なぁ、じじい。俺は強いか?」
「主……」
「なぁに、俺がちょっくら『本気』をだせば、こいつらなんてよゆーだろ?」
協力者はそう宣って刀をひっさげ、不用心に敵に近づいた。
その顔は笑っている。
狂気の沙汰である。
「――さぁ、俺は強いか?」
誰にともなく問いかけた問いに答える者はいない。
そもそも、協力者は問いてはない。
答えなど決まっているのだから。
「おいっ、落ち武者!」
《…………》
「光栄に思え! 俺に殺されることを!!」
《ハッ! 笑止! 協力者風情が剣を持ったところで何になる?》
「そういう驕りが、雑魚なんだよっ」
協力者は相手を小馬鹿にしように笑うと、動いた。
勝負は一瞬。目にも止まらぬ動きで会話をしていた聖騎士を一撃で殺した。
誰も何も発しない。
なぜなら、すぐに殺されたからだ。一体、一体。協力者は息つく間もなく敵を殺していった。
疲れを見せない協力者。
当然だ。
彼は疲れない。疲れない体を持っている。協力者のボディは疲労するということがない。生物ではないからだ。機械仕掛けの体はエネルギーが切れるまで動ける。
殺人マシーンと化した協力者は敵を圧倒し、破壊した。
もはや、敵の勝ち目はない。
協力者の超絶的な力の前に、撤退がはじまった。
しかし、それを許さない。協力者は追いすがりながら、抜け目なく逃げ出す者の息の根を止めていく。死屍累々。いつの間にか屍の山があちらこちらに出来ていた。折り重なった屍は血に染まり、真っ赤な山となっていた。
それに擬人刀たちはただ見ることしかできなかった。
手出しは無用。むしろ邪魔。協力者はこの場にいる誰よりも孤高の存在だった。
最後の一体を協力者が切り刻むのに、それほど時間はかからなかった。
血に濡れた蜂須賀虎徹の刀身を袖で拭い、綺麗に整える。
「やっぱり、使いやすいな」
満足気な協力者の声はいつもの明るいものになっていた。
服だって、真っ黒な和服だから血が目立たず、いつもの通りに見える。しかし、髪の毛と肌には鮮血が飛び散っていて、恐ろしい形相をしていた。
ちょうど目の端から血が流れているように血飛沫を受けていたため、血の涙を流しているように見えるのだった。
「――綺麗だ」
その言葉は誰が言ったか、――一人しかいないのだが――言葉は風に飛ばされ消えていく。
「さぁ、帰るぞ」
協力者は擬人刀たちに向かって言うのだった。
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