第42話 天誅という名の人誅

ロザリーは、わざと見回り組の屯所から近い通りに出没をくり返した。

彼女の彫りの深い顔は、京都の町では目立つ。

その考えは当たっていた。

「異人が彷徨いているって?」

京都見回り組 武居久は、ロザリーのうわさを聞き付けて眉を潜めた。

「ああ~困るわぁ……異人だなんて。死体になって転がったらいいのにあ~」

武居久は同僚に薄く笑って見せた。

同僚はなにも言わず、頭を下げ、その場から引き上げた。

巻き込まれるのを恐れた為だ。

「協力はしてくれそうもないかぁ」

久は面倒そうに、ため息をはいた。


それから数日すると、ロザリーもつけられていることを知って、わざと人気の無い道を選び桔梗屋へ返っていた。

最初に襲われたのは、嵐山の近くにある人気のない通りに差し掛かった時だった。

「御免」

小さく声が後ろから掛かる。ロザリーは振り返らず左脇から後ろに銃口を向け、二発ほど打った。

着物の袖に隠れて銃口は見えなくなっていて、後には何をしたか見えなかった。

「きゃぁ」

相手の悲鳴が上がるのを聞いてからロザリーは、ハンマーを起こして、反転した。

相手は、足に銃弾を食らったようで、刀を杖のようにして、立ち、着物上から大腿を押さえていて 白い着物に赤い染みが遠目に見えた。

出血していると見て間違いない。

「貴女……見回り組?」

「……」

相手は答えない。

「それとも、雇わレ?」

「異人が!日の本から出ていきなさいよ!」

「イヤよ。ここは私が生まれて育った国ダモノ。それに、質問に答えてないワ」

タンっ

今度は刀を持った側の肩を撃ち抜いた。

「あが……っ」

ドシャリと女侍はうしろへ倒れる。

「言えば楽に殺してあげル。言わないなら、体に穴が増えるワ」

「……っ」

ロザリーはハンマーを起こし、手早く拷問を開始した。


拷問でわかったのは、殺した暗殺者は京都見回り組の名義でないということ。

そして、武居久自身が動いているらしいと言うことだけだった。

「暗殺者を雇っておいて、自分も動くとはねぇ。まぁ男に対する冤罪ダモノ。念を入れるのは当然か」

男に対する不当な冤罪がばれれば、社会的な制裁が待ち受けている。

なんとしても、京都見回り組内にばれる前に解決してしまおうとするのは自然と言えた。

男は世界中で希少な存在で、女には無くてはならない。

特に鉄之助のような、英語も話せて、商売もできて、優しく、女を蔑まない。こんな優秀な男を冤罪で、猥褻な行為をした。とあっては世の中的にも反感を得る。

現代で言えば「炎上」ものなのだ。

そして、この世の女は、実行手段を辞さない。

「例え神が許してモ、私達は許サナイ。天が裁かぬなら、人の手でヤルだけよ」


京都見回り組 武居久は結果で言えば、殺された。

死体はなにかで斬られたように、首がなくなっていた。

首を切ったのは犯人は、お珠、美星、ロザリーだった。

理由はいくつかあるが、能天に銃弾による痕が残ってしまったためだ。

一発で能天を撃ち抜かれた武居久は刀を抜く暇もなく、倒れた。

撃ち抜いた頭は三人の銃口で、ボロボロになって原型をとどめていない。

事情を知らない者がみれば、猟奇殺人にも見える。

そのため、銃痕が見つかるのを防ぐために、あえて、首を切って埋めてしまった。

体は今も道端に転がったまま。


多少、騒ぎにはなるが、京都のどこにでも良くある死体だ。そのまま処理されて終わる事だろう。

「呆気なかったワ」

首を埋め終えたあと桔梗屋に戻る道すがらロザリーが呟いた。

「しょうがねぇじゃねえか。クソアマが避けねぇから」

美星が言うと

「まぁそうだな。折角一発めは外してやるつもりだったのにな。」

お珠が続けた。

「ロザリー面倒を追わせてすまなかったね。ありがとうよ」

美星がロザリーに礼を言う。

「別に、女として当然のことじゃない。男が恥をかいたなら……、女が代わりに戦う。世界で唯一の真理ヨ」

ロザリーは当然という顔で普通に答えた。


明け方になって、京都三条の橋の付近で、首なし死体が発見された。

身元は持ち物から、京都見回り組、武居久ということがわかった。

死体の上には、天誅の文字と、武居が行った男に対する不貞の罪が書かれていた。

「罰が当たったんや。男を冤罪で引っ張って助平なことをしたんやから。あんたも、男には優しくしたらなあかんで」

京都の町では、武居を憐れむ者は少なく、大半は、当然の酬いとして、または、自分の子供に言い聞かせるための教訓として話題に上ることになったのだった。

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男少女多の世界で。 ヒポポタマス @w8a15kts

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