第5話 ゆきどけ

彼女『四ノ宮みさき』は天真爛漫 だ。


高校の入学式から1週間

そろそろ、みんなが学校生活に慣れ始めた頃

私はまだクラスにうち溶けることができないでいた。

ホームルールが終わり、皆クラスの仲間たちと楽しげに話しているのを

横目で見て帰路についた。

私は、

桜の花びらが舞う並木の小道で四ノ宮みさきに呼び止められた。

「さくら、桜 風香さん」

「なにかしら、四ノ宮みさきさん」私はあえて素っ気ない返事で返した。

「まだ怒って…るよね…」

「いえ、なにも気にしてないわ。大好きなアニメの声優さんが突然降板してその後知った理由が好きな人ができて結婚します、と聞いた時や、大好きなゲームシナリオライターさんが実は替え玉だと知った時や、この国のメイドさんが「お帰りなさいお兄ちゃん、お兄ちゃん大好き」のお兄ちゃんが本物のお兄ちゃんではないと知った時ほどに、気にしていません」

(わー…、ものすごく怒ってるよ…)

「桜さん、あのね、初めての自己紹介で桜さんの事を魔女だって言っちゃった事

本当にごめんなさい。隠してる事知らなかったの…」

四ノ宮さんは私より少し背が低い。

顔を少し上げ、上目遣いに覗いてきたとき、ショートカットの横髪がぴょん、と跳ねた。


私は国の創った『国立魔法機関アネモネ大学附属アネモネ高校』に母の薦めで入学した。

私は中学まで、この大学の理事長である『始まりの魔女』と呼ばれている始祖の屋敷で

学校に通わず、一緒に暮らしている大人たちに勉強を教わっていた。

だから、同学年の友達は一人もいない。それでいいと思っている。

だが母は「友人は必ずあなたの心の暖かな光となる」と言って、否応無く入学手続きをしてしまった。

この高校に入学するには、厳しい試験と審査が待っている。

世界中から選び抜かれた人材がこの国に集まり、ふるいにかけられ、最終的に合否は国の審議にかけられる。そんなエリートの中に突然、私はポンと放り込まれたのだ。

理事長関係者だというだけで試験を受けずに入学した私は、ずっと後ろめたさがあった。

(友達になれない…なってはいけない…だってわるいもの…頑張った人たちに)


「ふっー」私は一息き、続けて

「四ノ宮みさきさん。もう、本当にその事は気にしていないの。だから、謝らなくていいわ」

不安そうな顔をしている彼女を安心させるために笑顔で優しく応えた。

この言葉に彼女はますます不安そうな表情となり真剣な瞳で見つめなおしてきた。

「桜さん!」と言いながらグッと一歩近づく。

彼女の顔が目の前に迫り恥ずかしさで目を逸らしてしまった。

「な、なんですか、四ノ宮みさきさん」

「みさき、みさきでいいよ」

「なっ…」

考えたこともない事をいきなり目の前で言われると固まる、というのは本当のようだ。

「と、友達でもないあなたを、な、名前で呼べと言うの…」完全に声が裏返ってしまった。

「えっ、だってさっき、もう気にしてないって…」

「そ、それはあなたが余りにも悲しそうな顔をするから…」

「わたしは…」

「私は、あなたを魔女だとわかった時、とてもどきどきして、胸がとても熱くなりました」

胸の前で結ばれた手、少し震えている肩で彼女の思いに気づく。


「私は小さい頃から魔女に憧れていて、不思議な魔法はとても美しい世界を創り出し、人々を幸せにする、といつも聞かされていた事を覚えています」

「この学校が設立されると聞いた時、私は絶対にここに入って魔女と友達になると決意しました」

とても真剣な眼差しでこれまでとは違う彼女の意思に気づく。


「抑えられなかった。溢れる想いが…、嬉しさが…」

彼女は涙を見られまいとうつむき、肩を震わせながら、絞り出すように言葉を続ける。

「ごめんなさい。あなたの気持ちを考えてあげられなくて。私の身勝手な行動があなたを傷つけてしまって…」

震える肩にそっと手を添えた。

「こちらこそありがとう。こんなに真剣に私のことを想ってくれる人がいるなんて思わなかった。本当のことを言うとね、少し皆んなに後ろめたい気持ちがあったの」

彼女は瞳に涙を残したまま顔を上げた。

「私は、みんなと違って、何の努力もしないでこの学校に入学したの。だから、知られるのが怖かった。出来るだけ人と関わることを避けてきてたの」

彼女の瞳にもう涙は無くなり、私の話を一言も聞き漏らすものかと言わんばかりに見つめてくる。

「だから、あなたに魔女だと見抜かれた時とても恥ずかしくて、この学校に入った事を後悔したわ。だって、この学校は魔女を学ぶところでしょう。何もできない私をみた皆んなが、魔女はこんなものかとがっかりする姿が想像出来るもの…私に向けられる視線がとても怖いの…」

突然のことだった…

「好きです」

小さな声で震えていたが、はっきりと聞こえた。

「あなたが 大好きです」

力強く彼女は私に届くように思いを込めて言った。

「どんなことがあったって、私はあなたを見放したりしない。

あなたが悲しいときは私も一緒に泣いてあげる。そして一緒に笑って一緒に生きていくんだ!絶対に…」そこまで一気に言うと、わぁぁーと大粒の涙を流し大きな声で泣いた。

「まるで、プロポーズみたいね…」

私も涙がこぼれた…


彼女はなんて天真爛漫なんだろう…


彼女を見てそう思った…

私はひとりで何か思い違いをしていたのかもしれない

こんなにも私を愛してくれる人がいる

心の支えを得た私は なんて幸せなんだろう


ありがとう みさき















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魔女の苦悩 しろだん @sakuwa

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