極寒の雪と灼熱の火山に取りかこまれた集落には、土着の宗教があった。閉塞された地域の連帯を維持するべく、異端を排斥する意識を強めた教理は、集落に生まれ育った者を互いに喰いあわせる。神は異端を許さない。教団員は密告により昇進する。身を潜める異端者は他者を教団に売ることで生き延びる。集落は、異端を許さない…。
孤絶した空間における集団意識の暴走と崩壊を書ききった、読みごたえのある硬派な群像劇だと思いました。それぞれの人物の思惑や時間軸が絡みあう、終盤はまさに圧巻です。
そうして筋書と構成の巧みさはさることながら、なにげない描写がほんとうに素晴らしい。この雪と火山と宗教を題材にした小説だからこそ使える表現があちらこちらにちりばめられていて、思わず唸ります。また、その場にいた者にしかわからないような、その土地の気候や物の質感、雪にまつわる音の響きなどが繊細に書かれていて、実はどこかにこんな地域があって、こんな宗教があるのではないかと思わせられます。それは人物も同様で、それぞれがなにかを感じながら思考して、真綿で首を絞めるような宗教の支配と極寒のなかで生き続けています。
ほんとうに読みごたえのある短編でした。硬派な小説を好む御方には是非とも読んでいただきたい一篇です。Jail Fragmentから古木おうみさんを御知りになられた御方も是非。