3日目

「...弥富の次は、桑名に止まります。」


名古屋行き急行列車に乗った私はこのアナウンスに驚いた。桑名、弥富、蟹江と続き、終点名古屋に着駅するはずの列車が、どうして桑名・弥富間を往復するのか。


車掌が正月ボケで言い間違えているのだろうとは感じつつも、

まさか、このまま戻るのかと私の脳内世界のどよめきを隠さない。そんな内側の世界とは裏腹に、外側の世界は沈黙を守った。



年末の仕事の片付けが終わったのは、12月30日の深夜のことだった。納品したデータに不備があり、一部を修正しなければならない作業に追われていた私は眠気眼の中、寒い実家のリビングで仕事を続けた。ひとつだけ断りを入れておくと決して仕事が好きなわけではなく、やるべきことをやっているだけなのだ。そうやって普段から身体に言い聞かせているせいか不思議と眠くはならない。


そういえば東京の住居には炬燵がない。居住しているのがマンションの高層階であるからなのか、手元も足元もそこまで寒くはないのだ。文明の利器にお世話になることは多いが、田舎に喉って来て炬燵という歴史的な文明の世話になろうとは思ってもいなかった。


〜年始、滞在最終日にて〜


正直なハナシをすると、今年は寝正月だった。言い訳をしておくと、寝具が身体に合わず布団から起き上がれない日が続いたのだ。私は悪くない。真犯人は寝具だ。攻めるなら寝具を責めるべきなのだ。しかしだらだらして終わったわけでもない。私なりの今年の過ごし方を設計していたのは事実であって、やりたいことがたくさん出てきた。


・お金を節約すること

・広い家を借りること

・趣味の時間を作ること

・運動をすること


などなど、計画は多岐にわたる。その、どこまでを実行できるのかはわからないが、6月で29歳になることからも、より大人になるための準備をしていきたいと考えている。


スーツケースを引きずろうとしていると、両親が地元の駅まで車で送ってくれた。スーツケースは2つ、帰る準備は万全だ。とはいえ世間は帰省ラッシュ。新幹線の指定席が取れずに自由席に乗車することとなるのが億劫ではあるのだが・・・。



「さぁ、帰ろう、東京へ。」


そう言った彼の言葉に対して、車内のアナウンスが間髪を入れずに突っ込んだ。


「...弥富の次は、桑名に止まります。」


私は、このままこの電車に乗っていてもいいなと感じたのだった。

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とある2018年の冬の日に Haruka @yuharuka

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