第20話

「……魔族ね。どうやってそれを知ったの?」

「本で読んだ。知ることは別に難しくはない。」


 図書館に置いてある本を読めば知ることはできる。ましてや童話にも記述はあるので国民皆知っている可能性だってある。


「子供時代の話を懐かしむために来たわけじゃないんでしょ?」

「生憎童話を話してくれるような大人はいなかったよ。ここへ来て知った。」

「タイミングもタイミング。大体の検討はついているのね。」

「まあな。」


 ランリィは深いため息をついた。そりゃわかるか、と小さくぼやいてティーポットからカップにもう一杯お茶を淹れて一口飲んだ。


「友達の妖精がって話をしたわよね?」

「覚えている。」

「その妖精が見当たらないの。三年もこの街にいるのに。」

「この街にいないんじゃないか?」

「いいや、絶対にこの街。最近のマターの残骸だけは見つかるの。でも姿が見えない。」


 妖精は一般人には見えないから聞き込みなんてできない。シュッキ神族も街には普通いない。ランリィはレア中のレアな存在だ。


「かくれんぼでもしている気分なんじゃないか?ほら、妖精っていたずら好きなんだろ?」

「あの子は飽きっぽいの。三年もかくれんぼするぐらいなら私と一緒に遊ぶ!って言って出てくるわよ。そしてまた飽きて他のところに行くっていうのが一番考えられるわ。だから同じ街に三年間も新しいマターの残骸が更新されて行くなんておかしいの。」

「そこで宝物庫捜査ってことか。」

「僅かなヒントを求めてって感じね。ここの近くにある宝物庫の鍵を探してみたら売られていたからなんとかお金を工面して買ったの。まつわるものだったら何かあるかもしれない。人探しのものだったらさらにいい。何もせずに残骸を追っているだけじゃ会えないと思ったからね。」


 彼女なりの別のアプローチ方法が宝物庫の攻略だったってわけか。一人じゃいけないしミームラはなんか頼りないしで見送られていたのが運良く俺が現れて


「…そして宝物庫攻略中に魔族が現れたってことか。」

「だいたいあってるわ。魔族が現れた。これは一大事なの。本来なら里に戻って報告したいけれどそうはいかないみたい。あなたが飛び出してくる前に扉の脇で囁かれたの。

『そのまま、そのまま動いちゃダメだよォ。君の友達は美人だが、ちょっと細すぎるのと自由奔放なのが玉に瑕だと僕は思ったよ。これから戦って君たちが勝てたら明日会わせて上げてもいいよ。王城の裏に来なさい。もちろん、手は抜いてあげるから。じゃあキャアと君が悲鳴を上げたらスタートだ。』

 ってね。」


 あの俺が宝物庫内を見回していたあの時にランリィは敵とのコンタクトをとっていたのか。なぜ早くマター撃による撃退法を教えてくれなかったのか。なぜ初撃を回避をしなかったのかが疑問だったがそれだったら少し納得できる。

 そして明日会うという一言。それについては必ずと言っていいほど相手に思惑があるはずなのだ。いくら深読みしてもいいぐらいに考えなければならない。魔族は強い。


「明日か。魔族を封印したことのあるシュッキ神族は呼べないのか?」

「無理ね。」


 なんだ、いくら神といえどさすがに老衰か。


「バカなこと考えているだろうから説明しておくけど死んではないわ。シュッキ神族は血が濃ければ濃いほど長命。封印したのは霞から生まれた初代だから故郷の村にまだ生きているわ。死ぬ気配すらしない。でも村までここからでもあんたの足で全力でも10日ぐらい。往復で20日。明日までなんて到底無理。」

「うーん、明日はとりあえず凌いで後日神族たちと魔族の再封印をするのは?そうだよ。後日神族を呼び寄せて奪還作戦組めばいいじゃないか。」

「今更村に協力を仰げないわ。親に背いて家に大事にしまってあった鍵を持って飛び出して来たんだもの。お父さん怒り心頭だと思うわ。恥ずかしいっていうのもあるけれど私のいうことなんて聞いてもらえないはず。」

「でも魔族は再封印しなきゃいけないというのはシュッキ神族皆のメリットと合致するはず。シュッキ神族たちの協力は絶対だ。」

「でも!」

「俺たちだけじゃ確実に友達取り返せるわけじゃないんだぞ。単なる親子ゲンカのせいで助けられなくてもいいのか?自分の恥ずかしさの方が友達の命よりも重いのか?本当に友達を助けたいと思っているのか?」


 ランリィは立ち上がって彼女のサイズにぴったりな小さな机を強く叩く。それを予測したユニールは紅茶が溢れると思ったので自分とランリィのティーカップを持ちあげる。彼女の顔色が気になったので首を回して下から彼女の顔を覗く。しかしそれがランリィをさらに燃え上がらせる燃料となってしまった。


「何あんた!バカにしているの!?そういう態度が嫌いなの!放出ができないから戦える相手じゃないって逃げるの?私たちだけで戦えないって決まっているわけじゃないじゃない!!とにかく無理だって言ってるの!」


 俺は友達がいないからなぜ彼女がそこまで怒るのかわからない。一番身近であった爺さんに置き換えて考えてみよう。長年の敵、うーんこの場合は村長?に爺さんが連れ去られる。「なんでクソ野郎が俺を捕まえるんだよ。」とか言いながらぶん殴って財産と飯をふんだくって帰って来そうだな、まず無理だろう。たとえ爺さんがやられてもあれだけ「弱いお前が悪いんだー」とか「強くないからやられるんだー」とか言ってたのに捕まってざまあみろとしか思えないな。我が身を案じて下手を打たないのが最善だとしか思えない。

 友を本当に助けたいのであれば、今激情的にならず相手の様子を伺いつつ100%助けられる環境に持って行くのが彼女の仕事のはずだ。

 だが、それをうまく伝えられない俺は彼女をさらに激昂させてしまい、ついには家を追い出されてしまった。

 ……コミュニケーション能力の低さをどう改善するかが今後の課題に加わった。


 テンプルバーのあたりをうろつく。日はすでにだいぶ傾いており夕日が赤レンガに当たって燃えるような色をしている。しかしその脇にはくっきりとした黒の影が落ちている。

 一杯飲んでもいいかもな。そう思ったが、明日自由に動けないと良くないと思い、飯がうまいのを売り文句にしている飲み屋にはいって果実汁とがっつりした飯を食べる。出て来たのはパンとスープ煮込み、煮込みは外国の料理だとマスターが言っていた。ニンニクとオリーブオイルがいい具合に混ざり合い、ときたま香るバジルがまた食欲をそそる。最後の一滴までパンに吸わせて食べる。硬いパンが少し炙られてカリッとしているのもとても点数が高いが、何より煮込みとここまで会うのかと感嘆の息がつい出てしまった。それをカウンターの向こうでマスターがニヤニヤして見ている。「うまいだろう?」と問いかけるように。


 飯を食い終え宿に戻る。と、その前に商会にお邪魔する。店員にククリールさんについて聞くと奥にいるので自由に入ってと言われた。今まで対応が良かったのに今回はしかめっ面での対応だったので、もしかして嫌われたか?と少し疑問に思ったがすぐにその正体がわかった。


「あ、ユニールさん。この匂いはテンプルバーのつまみのうまいとこ行ったんですね。煮込み食べましたよね?あれものすごくうまいんですが口の匂いが気になるので食べたあと商談は無理になりそうですね。」


 ククリールさんが暗に「口が臭いからここで話すな。」と行っているような気がしてすぐにでも口を閉じた。

 口臭改善の葉っぱをくれた。噛んでいるとスタッフから領収書を渡された。

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宝物庫の鍵 マウヨシ @mauyoshi

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