エピローグ わたしたちは痛みと共に
「それ、もう治らないの?」
「うーん……多分」
「
今更仄にそう言われても、いちいち腹を立てたりはしないけれど。
わたしは傷跡を指でそっとなぞった。妙な話だが、実のところこの傷には変な愛着のようなものがあった。例えば、仮に医療的にこの傷を消せるとしても、わたしは実行しないだろう。この沢山の傷は、仄の言う通りわたしが
別に、人に胸を張って見せられる、そういうものではないけれど。
わたしがこの先も、忘れずにいなくてはいけないものではあると思うのだ。
ふと眠気を覚えて、わたしは壁掛け時計を見上げた。アンティーク調のフレームに収まった文字盤の針は、午後十一時過ぎを指している。明日は休みだけれど、今特にやりたいこともない。仄と喋るだけなら寝転がりながらでもできる。
わたしはマグカップに残っていた紅茶を飲み干し、椅子から立ち上がった。仄はいつの間にかカーテン越しに窓に顔を突っ込んで外を眺めている。
椅子を直しながら、ふと机の上にあるものが目についた。カッターナイフだ。そういえば、これを買ったのはいつだっただろうか。一体いつからこれは机の上でじっと横たわっているのだろう。
わたしはそれに手を伸ばした。グリップを握る。刃を繰り出すためのスライダーにいつものように親指をかけて、
――わたしは力を抜き、引き出しを開けてカッターナイフをしまいこんだ。
「電気消すよ、仄」
「はいはぁい。もう寝るの?」
「疲れたの」
部屋の灯りを消し、わたしは布団の中にもぐりこんだ。最初はひんやりとしているそこが、じわじわと体温で
――これからも、少なくとも高校でわたしに友達ができることはないだろうし、相変わらず嫌な思いもするだろう。
でも、それでもいい。それでも構わない。
わたしは、わたしの痛みを抱えながら、まだやっていける。
少女は痛みで武装する 早水一乃 @1ch1n0
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