エピローグ 新たな時代へ

 静居達との死闘から一か月が過ぎた。

 災厄は、防がれ、今は和ノ国は、落ち着きを取り戻している。

 聖印一族の頂点であった静居は、いなくなったが、聖印一族は、一つにまとまっている。

 もちろん、聖印寮もだ。

 なぜなら、柚月が、聖印一族の長に就任したからだ。

 柚月は、断ったが、満場一致で、就任となったらしい。

 当然であろう。

 彼は、和ノ国を救った英雄だ。

 誰も、異論があるはずがない。

 朧達も、柚月が、適任であると考え、柚月を長に推薦したのだ。

 柚月は、朧達に背中を押される形で、聖印一族の長として、聖印京を治めた。

 もちろん、平皇京と連携を取りながら。



 初瀬姫は、万城家が管理している書庫で、記録書に書かれてある出たらめな文字を解読している。

 今後の為に、葬られていた歴史も、残しておきたいと考えたのだ。

 悲劇を二度と繰り返さないために。

 高清、春日、要も、許可をもらい、書庫で、記録書の解読に手伝っている。

 そして、夏乃もだ。

 夏乃は、初瀬姫達の為にお茶を淹れ、差し出した。


「初瀬姫様、どうぞ」


「ありがとう、夏乃、さすがですわね」


「い、いえ。調子はどうですか?」


「だいぶ、解読できましたわ。まだ、時間はかかりますけど」


 この一か月間、初瀬姫達は、書庫にこもって、解読を続けてきたのだ。

 最初は、難解で、思うように進まなかったが、今は、一日、一冊、解読できている。

 と言っても、書物の数は、千冊以上だ。

 全て、解読するには、時間がかかるであろう。

 だが、初瀬姫にとっては、やりがいであった。


「でも、高清さん達も、協力してくださってますから、心配いりませんわ」


「みたいですね」


 研究者として、知りたいと思ったのであろう。

 高清達も、初瀬姫に協力してくれているのだ。

 彼らのおかげで、解読が進んでいると言っても過言ではない。

 心強い味方ができたと初瀬姫達は、心から感謝していた。


「初瀬姫、解読できたぞい」


「こっちもでござる」


「あっしも、できたでごぜぇやすよ」


 高清達は、初瀬姫達に記録書を渡す。

 それも、同時にだ。

 初瀬姫も、夏乃も、きょとんとしていた。


「あ、ありがとうございますわ」


「さすがですね。もう、こんなにも、解読なされたのですか?」


「これくらい、朝飯前でごぜぇやすよ」


 高清達は、一日に五冊以上の記録書の解読をしている。

 あまりの速さに初瀬姫達は、あっけにとられていたのだ。

 さすが、研究者と言ったところであろう。

 高清達にとっては、朝飯前のようだ。


「ですが、以前、解読できなかったって言ってませんでしたっけ?」


 初瀬姫は、ふと、ある事を思い出す。

 それは、以前、朧に記録書の事を渡した時の事だ。

 朧は、一日で、全て、記録書を解読したが、高清達は、さっぱりだと言っていた。

 それなのに、なぜ、今は、いとも簡単に解読できているのであろう。

 初瀬姫は、不思議でならなかった。


「あ、あれは、しょ、正体を知られないようにするためじゃ」


「朧殿は、気付いてしまうかもしれないと思ったでござる」


「そうでしたの」


 春日と要は、戸惑いながらも、答える。

 あの時は、まだ、自分達の正体も、罪も明かしていなかった。

 ゆえに、解読してしまったら、違和感を覚えてしまうのではないかと恐れてしまったのだ。

 だが、今は、そんな事は、どうでもよかったように思える。

 どんなことがあっても、朧なら、受け入れてくれたであろうから。


「そういえば、夏乃は、ここにおってよいのか?」


「そうでござる。綾姫殿のお側にいなくてよいでござるか?」


 春日と要は、夏乃に尋ねる。

 夏乃も、一か月間、書庫にこもりっきりだ。

 ずっと、綾姫の護衛をしていた彼女が。

 だからこそ、不思議に思ったのだろう。

 綾姫の側にいなくていいのかと。


「その事ですが、綾姫様に言われてしまったのです」


「な、何をですかい?」


「もう、貴方は、私の護衛をしなくていいのよ。自由に生きなさいって」


 戦いが終わった後、綾姫は、護衛の任を解いたのだ。

 夏乃を自由にしてあげたいと。

 もちろん、夏乃は、護衛を続けたいと涙ながらに懇願したのだが、綾姫は、説得したのだ。

 自分のやりたいことを見つけてほしいからと。

 夏乃は、しぶしぶ、承諾し、これから、何をしようかと、模索し、初瀬姫が、記録書を解読すると聞いて、自分も、解読しようと決意したのだ。

 自分のやりたいことを見つけられるのではないかと推測して。


「綾姫もわかってませんわね。夏乃にとっては、綾姫のお側にいる事が、生きがいですのに」


「……そうですね。でも、もう、護衛の必要はないと私も思うんです」


「どうして、ですかい?」


「だって、柚月様が、側にいらっしゃるんですから」


「それも、そうですわね」


 初瀬姫は、あきれていた。

 夏乃にとって、綾姫の護衛は、やりたいことだったのだ。

 生きがいだったのだ。

 幼い頃から、綾姫と夏乃を見てきた初瀬姫だからこそ、夏乃の気持ちを汲んでいた。

 だが、夏乃は、もう、吹っ切れた様子であった。

 なぜなのかと、疑問を抱いた高清は、尋ねる。

 綾姫には、柚月がいるからだ。

 柚月が、綾姫を守ってくれるだろうと。

 夏乃の言葉を聞いた初瀬姫達は、納得していた。


「それに、私は、万城家として務めを果たしたい。ですから、この記録書を解読して、歴史に残しておきたいんです」


 初瀬姫の手伝いをしていた夏乃は、やりがいを、生き方を見つけたのだ。

 歴史に葬られた記録書を解読することも、万城家としての務めなのだと。

 護衛できない寂しさを埋めるためではない。

 これは、夏乃の本心だと、初瀬姫は、感じ取っていた。


「頼りにしてますわよ、夏乃」


「はい!初瀬姫様」

 

 初瀬姫と夏乃は、微笑んだ。

 この記録書を後世に残すと決意して。


「よし、あっしらも、記録書を解読したら、研究を再開するでごぜぇやすよ!!」


「うむ、そうじゃの!!」


「頑張るでござる!!」


 高清達も、気合を入れる。

 全ての記録書の解読ができたら、研究を再開するつもりなのだ。

 自分達の為ではない。 

 聖印一族や、人々、式神の為に。

 誰もが、誰かの為に、尽くしたいと願いながら。



 宿舎の隊長室では、和巳が、報告書を読んでいる。

 和巳は、聖印寮の警備隊の隊長に就任したのだ。

 もちろん、和巳は、断ったのだが、朧達は、和巳ならできると、背中を押し、和巳は、隊長を務めることとなった。

 隊長室には、柘榴、真登、透馬、景時、和泉、時雨もいた。


「和巳、これ、報告書、よろしくね」


「うん、ありがとう。助かるよ、さすがだね」


「どうも。でも、俺、こう言うの得意じゃない」


 柘榴は、報告書を和巳に提出する。

 ちなみに、柘榴は、真登と共に式神隊という部隊に所属し、隊長を務めることになったのだ。

 これからは、式神達と共に生きていくことになる。

 彼らの協力も、必要となってくるであろう。

 ゆえに、彼らは、式神達と隊を組むことになったのだ。

 柘榴と真登ならば、人間と式神の架け橋となり、取りまとめてくれるであろうと柚月は、推薦し、柘榴と真登は、断ろうとしたが、瑠璃が説得し、承諾した。

 そのため、柘榴は、あまり、隊長業務に乗り気ではないようだ。


「そんなこと言って、柘榴、生き生きしてたっすよ」


「黙っててよ、真登」


「はーい」


 と言っても、まんざらではないようで、真登は、柘榴が、今まで以上に、生き生きしていた事を明かす。

 暴露された柘榴は、一気に不機嫌になり、真登をにらむが、真登は、反省する気は、毛頭なかった。


「しかし、聖印寮は残しておくとは、とんだ改革をするもんだねぇ」


「さ、さすが、柚月さんですね」


 思い返していたのか、和泉も、時雨も、柚月に対して、感心しているようだ。

 なぜなら、柚月は、聖印寮を廃止することなく、改革に臨んだのだ。

 聖印寮は、妖討伐の為に結成された組織であった。

 だが、妖は、もういない。

 妖との戦いは、終わりを告げた。

 だが、聖印寮を廃止してしまっては、隊士達は、路頭に迷う可能性があったのだ。

 ゆえに、柚月は、考案した。

 聖印寮をそのまま残し、聖印寮の中を改革する事に。

 警護隊、密偵隊は、残し、討伐隊、陰陽隊は、廃止。

 代わりに、警備隊、式神隊を設立した。

 警備隊は、聖印寮以外の街や平皇京を守る治安部隊。 

 式神隊は、式神達と協力して、和ノ国を守る部隊だ。


「戦いは、終わったけど、治安の為にも、その方がいいと思ったんだろうね」


「まぁ、当分は、平和だよな~」


「その分、暇だけどね」


 確かに戦いは、終わった。

 だが、治安が悪くなる可能性だってある。

 彼らは、知っているのだ。

 良い人間もいれば、悪い人間もいる。

 それは、式神にも言えることなのだ。

 ゆえに、治安を守るために、聖印寮は残しておくことを柚月は決意した。

 式神が妖にならないようにするためでもある。

 もう、悲劇を繰り返さないためなのだ。

 と言っても、今の所は、平和そのものだ。

 争いも、起こっていない。

 ゆえに、暇だ。

 柘榴、透馬、和巳は、各々思うところがあるようで、それぞれの意見を呟いていた。


「そう言えば、和泉と時雨は、平皇京に行くんだよな?」


「そうさ。これからは、平皇京の人間とも、協力する必要があるからねぇ」


「で、ですが、僕につとまりますでしょうか……」


 透馬は、和泉と時雨に確認するように問いかける。

 来月、二人は、平皇京にいる撫子と牡丹に会いに行くことになっているのだ。

 二人は、和巳達とは違い、別の任務を柚月に言い渡されていた。

 それは、平皇京や他の街の人々と連携が取れるように架け橋になってほしいと。

 和泉と時雨は、これまで、様々な場所で暮らしていた為、平皇京や他の街の事は、柚月よりも、熟知している。

 だからこそ、柚月は、和泉と時雨が、適任だと考えたのだろう。

 と言っても、時雨は、不安に駆られているようだ。

 本当に、自分でよいのかと。


「大丈夫だよ、時雨君。君なら、できるって」


「そうそう、自信持つっす!!」


「あ、ありがとう」


 景時と真登は、時雨を励ます。

 時雨は、一人ではない。

 和泉もいる。

 二人だからこそ、やり遂げられると信じているのだろう。

 励まされた時雨は、嬉しそうに微笑んでいた。


「そう言えば、今日だっけ?朧君達が、旅に出るの」


「そうだったねぇ」


 ふと、景時は、ある事を思い出す。

 それは、朧の事だ。

 朧は、旅に出る為、今日、聖印京を出るのだ。


「ちょっと、寂しくなるっすね。ねぇ、柘榴」


「そうだねー」


「あれ?柘榴、どうした?機嫌悪いのか?」


 和巳達は、寂しがっている。

 共に戦ってきた仲間と別れるのは、寂しいのであろう。

 と言っても、柘榴は、真登に問われても、棒読みで、返事する。

 急に、機嫌が悪くなったようだ。

 なぜ、機嫌が悪くなったのか、透馬は、見当もつかないようで、柘榴に尋ねた。

 すると……。


「わかってないね、透馬は」


「え?」


「今回の旅は、瑠璃も、一緒に行くんだよ。だから、朧君にとられて、悔しいんだよ。柘榴は」


 和巳は、片目を閉じて、透馬に語りかける。

 だが、透馬は、やはり、わからないようだ。

 そこで、景時が、説明した。

 朧は、瑠璃、美鬼、千里を連れて、旅に出るのだ。

 当然、柘榴は、それが、面白くない。

 瑠璃を朧にとられてしまうのだから。

 ゆえに、柘榴は、急に不機嫌になったのであった。


「違う」


「え?」


「寂しいの。瑠璃が、いなくなるから」


 柘榴は、景時の話を否定する。

 悔しいからではないようだ。

 実は、寂しがっているのだ。

 瑠璃が、自分の元を離れていってしまうから。

 ずっと、一緒にいた愛する妹が。

 ただただ、それだけであった。


「妹離れは、まだ、当分先だね」


 和巳は、苦笑いする。

 柘榴が、妹離れするのは、まだ、遠い先のように感じて。

 景時達も、くすくすと笑っていた。

 だが、柘榴の表情は、穏やかだ。

 瑠璃が、自由になれたと感じているのかもしれない。

 もう、彼女を縛るものは、何もないのだから。



 朧、瑠璃、千里、美鬼は、聖印門の前に立つ。

 旅立ちの時だ。

 朧にとっては、これが、二回目の旅となる。 

 だが、前回とは違い、好奇心でいっぱいだ。

 これから、どんな旅になるのか、楽しみで仕方がないのであろう。

 柚月、綾姫、九十九、光焔は、朧達を見送りに聖印門の前に来ていた。


「本当に、行くんだな」


「うん。どうしても、見て見たくなったん。どんな世界が広がってるか」


「そう言うところは、変わらないんだな」


 朧が、旅に出たいと思ったのは、あの美しい星、世界を目にしたからだ。

 和ノ国だけなく、いろいろな世界を回って、様々な景色を見て、様々な知識を得たい。

 そう思って、旅に出る事を決意したのだ。 

 もちろん、戦いが終わってすぐにとはいかず、柚月の改革を手伝い、落ち着いてから、旅立つことにした。

 成長しても、好奇心旺盛なところは、変わっていない。 

 朧は、朧なのだと、柚月は、改めて、感じていた。


「でもよ、俺も、ついていかなくていいのか?」


「大丈夫だよ。皆がついてきてくれるから」


「だよな」


 九十九は、朧に尋ねる。

 少し、寂しいのだ。

 親友である朧が、旅立ってしまうのだから。

 だが、朧には、瑠璃、千里、美鬼がいる。

 これから、どんなことがあっても、乗り越えられるだろう。

 九十九は、そう、信じていた。


「千里、朧の事、頼んだぞ」


「ああ。でも、朧なら、大丈夫だろう」


「そうだな」


 九十九は、千里に朧の事を託す。

 朧の相棒である彼に。

 だが、千里は、朧なら、この先何があっても、大丈夫だろうと告げる。

 なぜなら、朧は、強いからだ。

 心も、体も。

 九十九も、それを知っており、うなずいた。


「けど、これでいいのかな」


「何がだ?」


 九十九は、不安に駆られた様子で呟く。

 柚月は、どうしたのかと、感じ、九十九に尋ねた。

 九十九が、悩むなど、珍しいからだ。


「ほら、俺、妖狐の里に住もうと思ったんだよ。たまもひめの力受け継いだしな。なのに、炎尾の奴に、お前は、人間と共に生きろって言われちまったし」


「俺もだ。龍神王として生きるって、言ったんだが、人間と共に生きてほしいって、断られてしまった」


 実は、九十九と千里は、妖狐の里、龍神の集落で、生きようと決意を固めていたのだ。

 たまもひめ、龍神王と融合を果たした二人は、自分の力で、同胞を守ろうとしていた。

 彼女達の代わりに。

 だが、炎尾達も、龍神達も、九十九と千里に懇願したのだ。

 人間と共に生きてほしいと。

 つまり、人間と式神の架け橋となってほしいと。

 二人は、承諾したが、本当に、それが、正しかったのか、悩んでいるのだろう。


「たぶん、自由に生きろってことだと思うぞ」


「自由に?」


「うむ」


 光焔は、答えを導きだしたようで、二人に告げる。

 だが、自由にとは、どういう意味なのだろうか。

 千里は、見当もつかないようで、光焔に尋ねた。


「炎尾達も、龍神達も、九十九と千里の願いに気付いたのだ。柚月達と共に生きたいって」


「ま、まあ、そうなんだけどさ」


 光焔は、語り始める。

 炎尾達も、龍神達も、人間と共に生きてほしいと懇願したが、それは、九十九と千里の願いであると悟っているからこそ、そう、告げたのだ。

 何かに縛られるのではなく、自由に、想いのままに生きてほしいと。


「だから、自由に生きてほしいって思ったのだ」


「そっか」


「なら、それで、いいのかもしれないな」


 光焔の言葉を聞いた九十九と千里は、納得したようで、改めて、決意を固めた。

 柚月達と共に生きると。

 それが、自分達の願いであるから。


「朧、そろそろ、行くか?」


「うん、そうだね」


 千里は、朧に尋ねる。

 旅立つ時が来た。

 朧は、うなずく。

 その時、綾姫が、瑠璃の前へと立った。


「瑠璃、楽しんできてね」


「うん、ありがとう」


 綾姫は、瑠璃に声をかける。

 まるで、姉のように。

 瑠璃の過去を知っているから、柚月と九十九を瑠璃達が助けてくれたから、共に戦ってきたから、自由に旅立ってほしいと願っているのだろう。

 朧と幸せになってほしいと。

 瑠璃は、涙ぐみながら、うなずく。

 綾姫の優しさを感じながら。


「美鬼、瑠璃の事、よろしくね」


「はい。お任せください」


 綾姫は、美鬼に瑠璃の事を託した。

 美鬼は、瑠璃にとって相棒であり、姉であり、友だ。

 だからこそ、託したのであろう。

 美鬼は、微笑みながら、うなずく。

 瑠璃を守り、幸せにすると誓って。


「皆、達者でな。気をつけていくんだぞ」


「うん。帰ってきたら、お土産話、たくさん、聞かせてやるからな。楽しみにしてろよ」


「うむ、楽しみにしてるのだ!!」


 光焔は、朧の前に立つ。

 朧は、光焔の頭を撫でた。

 まるで、兄弟のようだ。

 聖印京には、守り神として生きることとなった光焔がいる。

 だからこそ、安心して旅立てるし、帰ってこれる。

 光焔なら、立派な守り神として、生きていけるはずだ。

 朧は、そう、予想していた。


「じゃあな」


「ああ、またな」


 柚月達に別れを告げ、朧達は、背を向けて、聖印門を潜り抜ける。

 柚月達は、朧達の背中をいつまでも、見送っていた。


「で、朧、これから、どこに行くのか決まってるのか?」


「うん、まず、最初は、瑠璃色の海を見に行くんだ」


 千里は、朧に行先を尋ねる。

 朧は、海を身に行こうとしていたようだ。

 それも、瑠璃色の。

 瑠璃との約束を果たすために。


「それ、いいですね」


「私、楽しみにしてる」


「うん。絶対に、行こうな!!」


「うん!!」


 瑠璃も、美鬼も、嬉しそうだ。

 特に、瑠璃は、朧との約束を果たせると思うと楽しみなのだろう。

 やっと、瑠璃色の海を朧達と見ることができるのだ。

 それに、まだ、見たことない景色が、朧達を待っている。

 そう思うと、楽しみで仕方がなかった。

 満面の笑みを浮かべる瑠璃。

 朧達も、つられて、満面の笑みを浮かべていた。

 


 柚月達は、朧たちの姿が、見えなくなるまで、見送っていた。

 本当に、朧は、成長したなと感じながら。


「行っちゃったわね」


「そうだな」


 柚月は、どこか、寂しそうに答える。

 やはり、寂しいのだろうか。


「柚月、寂しいか?」


「寂しいな。けど、もう、そろそろ、弟離れしないとな」


「そっか」


 光焔は、柚月の心情に気付いたのか、そっと、尋ねた。

 柚月は、正直に答えるが、穏やかな表情を見せている。

 これからは、別々の道を進む時なのだろう。

 そう思うと、いつまでも、寂しがっている場合じゃない。

 弟の成長を喜び、同時に、巣立っていった朧を、兄として、見守りたいと決意したのだ。

 柚月の様子をうかがっていた九十九も、穏やかな表情を見せた。


「さて、戻るぞ」


「うむ!」


 柚月達は、本堂へと体を向け、歩き始める。

 まだ、やるべきことは多い。

 だが、困難だとしても、できないとは、柚月は、思ってはいなかった。

 なぜなら、愛する者や仲間達がいるからだ。

 共に歩み、進んでいく。

 これからも、ずっと。


「ねぇ、柚月。いつか、私達も、旅してみましょう。ゆっくり、できる時に」


「そうだな。けど、当分先だぞ」


「いいわよ。先でも」


 綾姫は、柚月に提案する。

 自分達も、いつか、旅をしようと。

 朧達の姿を見て、自分も、旅をしてみたいと思ったのかもしれない。

 もちろん、柚月も、綾姫の願いを叶えてやりたい。

 だが、それは、ずっと、先の事だ。

 それでも、綾姫は、先でもいいから、旅がしたいと答えた。


「なぁ、その時は、俺も、連れてってくれよ」


「わらわもだ!!」


「いいぞ。一緒に行こう!!」


 九十九と光焔も、連れていってほしいと懇願する。

 もちろん、柚月は、断るはずがない。

 九十九達となら、楽しい旅になりそうだと、推測しているからだ。

 柚月達は、楽しそうに語りあいながら、本堂へと帰っていく。

 幸せをかみしめながら。



――神話の時代は、終わり、これから、新しい時代が始まる。


――でも、大丈夫だ。俺達なら。


 神々の時代は、終わりを告げた。

 もう、神々はいない。

 だからこそ、自分達で、新たな時代を作り上げていかなければならない。

 だが、柚月も、朧も、不安に駆られてなどいない。

 新たな決意を固めて、歩き始めたのだ。

 仲間たちと共に。


――俺達は、これからも、ずっと、式神達と共に生きるから。


 式神達が、いてくれるなら、どんな困難が待ち受けても、乗り越えられる。

 なぜなら、わかり合えることができるからだ。

 人と式神は、共存していくことができる。

 だからこそ、新しい時代を生きることができるのであろう。

 これからも、ずっと、ずっと……。

 そう、いつまでも。



                             完

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聖印×妖の共闘戦記―神話乃書― 愛崎 四葉 @yotsubaasagiri

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