第1話-C ハタンの訪問者たち The two dice show the two

ローブの女性が眼鏡をくいっと上げてから孝仁たかひとの方を向く。その仕草に孝仁はたじろいだ。しかし、女性は急に満面の笑みになり、

「驚かせてしまってすみません。私はセシリア・ソンブル=ファスィネ。あなたにお願いがありまして……」

 名乗ると、やや上目遣いに孝仁を見つめた。孝仁は一瞬どきっとしたが、まだ頭がついていかない。呆けた顔をしていると、孝仁を見つめていたセシリアの目がジト眼になった。孝仁はまた肩をびくっと震わせる。

「おかしいですねぇ……。魔法抵抗レジスタンスが高いんですかねぇ……」

 何やら呟きはじめる。孝仁が困惑していると、今度は少女の方が声を上げた。

「セシリア、魔法シャルムが効かないならちゃんと話をした方がいいと思う。ボクも落ち着いたからもうだいじょうぶ。今度はちゃんと話できるよ」

 その言葉にセシリアはジト目を少女の方に向け直した。

「じゃあ、とりあえずお願いしますよぉ……」

 その言葉を受けて少女は孝仁に向き直り、姿勢を正すと目を瞑って深呼吸を一回、そして力強い瞳で孝仁を見た。

「ボクはリリア・オー=デプラセ。セシリアと一緒にここから遠い場所から来ました。ある目的のために滞在したいのですが宿の当てがなくて、あなたにお願いしたいのです。どうかしばらくおいていただけないでしょうか?」

 繰り返されたことで孝仁も段々と呑み込めてきた。しかし、疑問は尽きない。

「えっと、リリア……さん? 泊る所なら旅館やホテルを探した方がいいのでは……?」

 困った表情でリリアは返す。

「ボクたちはこの世界のお金を持ってなくて……」

「この世界? 遠い所って一体?」

 それにはセシリアが答えた。足元に落ちていた本を拾い上げて彼女は言う。

「この本の中の世界ですよぉ」

「本の中?」

「ええ、あなたが先刻さっき開いていたこの本の、ハタンから私たちは来たんですぅ」

 孝仁はまたぽかんとしてしまう。しかし、セシリアが掲げる本の表紙を見て、少しずつ理解、納得しはじめていた。その表紙の絵には不自然なスペース。そして思い出した、彼女たちもまたその表紙の絵の中にいたことを。

「そんな……、本当に……?」

 そんな孝仁に膝立ちになっていたリリアの顔が近づく。金色の瞳が孝仁を真っ直ぐに貫く。

「お願いします。どうか置いてください」

「う、うん。いいよ」

 その言葉にリリアは緊張していた身体をふにゃふにゃと緩めた。表情も半分望外といった感じだ。

「リリア、魔法シャルム遣いました?」

「ううん。セシリアも知ってるとおりでしょ。それで、えっと……、その……」

 ここにきてリリアがもじもじとしだした。孝仁は少し考えて得心する。

「僕の名前は本田孝仁」

「孝仁さん、いいんですか?」

「うん、家は空き部屋ばかりだから。どれくらいの間、こちらにいらっしゃるのかわからないけど、しばらく大丈夫です」

 その言葉に二人はお辞儀をした。

「ありがとうございます、孝仁さん」

「宜しくお願いしますよぉ」

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Étudiante Interdimensionnel 桂 守秋 @hampen

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