第1話-B ハタンの訪問者たち The yellow die shows the one

 ベッドの上で、年頃の男の子の上に馬乗りになる、これまた年頃の女の子。孝仁たかひとの頬が知らず熱くなる。一方、上になった女の子は、そんな孝仁の様子には気づかないのか、じっと孝仁を覗きこんだままだ。何か声をかけようか、孝仁が逡巡しゅんじゅんした時、また先程のように強烈な光が女の子の後ろに現れて目を細める。

「どうやら転位成功のようですねぇ」

 落ち着いた女性の声が聞こえる。そしてその声は続けた。

「リリア、殿方に跨っていては、はしたないですよぉ」

 孝仁の目の前にあった顔が急激に赤くなる。そして、視線が泳ぎ出した。そのかわいらしい唇から言葉がこぼれた。

「えっ、あっ……、わわわ! ごめんなさい!」

 孝仁の上から慌てて飛び退く。自分にかかっていた重さがなくなり、孝仁は、ずれた眼鏡を掛け直して、改めて女の子を見た。黒と白のゴシックロリータの衣装に身を包んだ華奢きゃしゃな体躯の女の子。その衣装から伸びている腕は白くて、折れてしまいそうなほどに細い。腰まで届く黒髪は二つ縛りにされて、耳の上から垂れている。顔を見ると、頬を染めて金色の視線をわたわたと泳がせていた。

「あ、あの……」

 孝仁がじろじろと見ていると、その視線に耐えきれなくなったのか、少女が声を上げた。

「は、はい……」

 思わず返事をする。

「あの、えっと……」

 孝仁はその言葉の続きを待つ。

「えっと……」

 少女は視線をぐるぐると彷徨さまよわせ、ますます頬を紅潮させて、頭からは煙が出そうだ。小さくうなるような声を上げていた彼女であったが、意を決したように、また孝仁を真っ直ぐに射抜いた。孝仁は思わず肩をびくっと震わせる。そして、

「ここに住まわせてください!」

 そう言って少女はすごい勢いで頭を下げた。一方の孝仁は突然の事態に頭がついていかず、ぽかんと呆けた顔をするのみである。そんな孝仁を代弁するかのように、

「リリア、それでは事情がわかりませんよぉ」

 先程も聞こえた声が呆れたような響きで聞こえてきた。孝仁がそちらを見ると、黒いローブに身を包み、魔女のようなとんがり帽子を被った眼鏡の女性がベッドの脇に立っていた。その女性はショートカットの髪をかき上げてから溜め息をいた。

 そこでやっと孝仁はずっと置き去りにされていた言葉を絞り出した。

「あ、あなたたちは誰なんですか?」

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