第7話 おしまい
「かっちゃん。かっちゃん……!」
目を回していたかっちゃんは、たけちゃんの呼ぶ声にハッとしました。
気づくと、青空を背に、たけちゃんの顔が見下ろしていました。田んぼの土と藁の匂いが顔のすぐ近くでします。
「ああ、よかったわ、気ぃついたわ」
たけちゃんが隣のたけちゃんのおじいちゃんに言いました。
「
おじいちゃんがかっちゃんを覗き込みました。
「おぶってあげよ。家まで連れてったろ」
おじいちゃんがかっちゃんの横にしゃがみ込み、背を突き出しました。かっちゃんはそろそろと起き上がり、おじいちゃんにしがみつきました。
「マミちゃんが落ちてきて、かっちゃん下敷きになったんや。目ぇ開けへんから、びっくりしてじいちゃん呼んできたんや」
たけちゃんが言って、かっちゃんの土で汚れた背中とお尻をはたいた後、そばに落ちていた黄色い缶を拾い上げました。
「オレが持って行ったる。今日はもう、帰った方がええわ」
かっちゃんはまだあやふやな頭で、おじいちゃんの背中の上からあたりを見下ろしました。
「マミは」
「オレがじいちゃんと戻ったら、もう居らんかってん。びっくりして、家に戻ったんちゃうかな。ケガしてへんと思うけど」
「へびの皮は……?」
「ああ」
たけちゃんは気付いて、土手に目をやりました。
「あれ? 無いわ」
へびの皮は跡形もなく姿を消していました。
「どこに行ったんやろな。風で飛んでんやろか?」
探そうとするたけちゃんに、かっちゃんはもういいよ、と言いました。
たけちゃんのおじいちゃんの背中は広くがっしりとしていました。
あたたかなおじいちゃんの背に頬を当てながら、かっちゃんはさっき見た変な夢について考えていました。
家に帰るとおかあさんがびっくりして出てきて、あわてておじいちゃんにお礼を言いました。おかあさんの足元では、マミがニコニコとお菓子の大袋を持って上機嫌でした。やっぱり先に帰っていたようです。このあいだ、いとこのお姉さんからディズニーランドのお土産にもらったマシュマロを口いっぱいに入れています。
たけちゃんとおじいちゃんにお別れを言って、かっちゃんはおかあさんとマミとともにリビングに行きました。
「勝也、頭が痛くなったら言いなさいね」
おかあさんは心配そうにそういった後、泣き出した赤ちゃんの元へあわてて戻りました。
「にいちゃん、ごめんね」
マミが謝って、リビングの隅から何かを持ってきました。
あっ。
大蛇の皮でした。
でも、ところどころにマミの好きなネコちゃんのシールが貼ってありました。そして、あちこち千切れていました。
「……ありがとう」
あーあ、と思いながらかっちゃんはマミからへびの皮を受け取りました。中に入れようと黄色い缶を開けたかっちゃんは目を見開きました。
先に入っていたマミのビーズのネックレスの糸が切れて、バラバラに散らばっていました。
泣きそうなマミに
「おにいちゃんが直してあげるから」
とあわててかっちゃんは言ってマミが泣くのを止めました。
あとで、おかあさんに糸をもらわないといけません。
それからかっちゃんは、いつもどおり宿題をすると夕ご飯を食べて、お風呂に入りました。
その後、おかあさんからもらった糸でビーズを通し、新しくネックレスを作り直しました。
「早く寝なさい」
マミを先にベッドに連れて行きながらおかあさんが言いました。
「うん」
かっちゃんは答えて、しばらくしてようやく全部のビーズを糸に通し終えました。
眠い目をこすりながら自分の部屋に向かい、かっちゃんはまた変な夢について考えていました。
それにしても変な夢でした。
ああ、夢で良かったなあ。
次からおじいちゃんのパセリは絶対に食べようとかっちゃんは思いました。
部屋の電気を消したまま、かっちゃんはベッドの上へと乗っかり、布団の中に潜り込みました。
「ひゃあっ」
かっちゃんはヘンな声を出し、あわてて、布団から抜け出して部屋の電気をつけました。
甘い匂いが充満していました。
布団の中は、マシュマロでいっぱいでした。
部屋中がふわふわのマシュマロで埋め尽くされていました。
へびの王さま 青瓢箪 @aobyotan
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