登録者数:100028 我、バーチューバーになります!

「はーい! もちろん、我だよー! 今日は我、すごい報告を持ってきました! なんと──チャンネル登録者数が10万人なっちまったのです! こいつはミリオネアだぜー!」


 喜びのあまり、次々に荒ぶる魔王のポーズを決める魔王。

 天地魔闘の構えをやったあたりで主旨を思い出したのか、発表を続ける。


「すごかった。いやーすごかったのです。我と我がぶつかり合ったあの生放送から、がっつり登録者数が増えてですね。あるときなんて、某所のデイリーランキング1位だったのですが! 1位だったのですが! こんなにも定命の者たちが応援してくれて、我感無量。涙がちょちょぎれマキシマムなのです……!」


 だばーっと号泣して見せる魔王。


(実際、かーなーり、大変な数日間でした)

(ムミカさんはまた失踪しちゃいましたし、我のCGモデルは戻ってきませんでしたし)

(あっちこっちからいろんな問い合わせが来ますし、にゃむろPが心労でダウンしましたし)

(でも、ムミカさん。最後に我にだけ連絡をくれました)


 それは短いメールだった。


(「次は負けない。でも、次は私も独りじゃない!」)

(なんだか、少しだけ彼女と、分かり合えたような気がします)

(ともかく、盛り上がっている今が肝心です! エナドリをキメながら頑張ってるにゃむろPのためにも、我もストロング・コロナゼロをキメて、しっかりやらねば!)


「というわけで、今日は我の感謝デー! ランダム通話アプリを使って、実際に定命の者たち、あなたたちと特別にお話をしてみようというサプライズな試みなのです!」


 そういって、魔王は〝ロンリー〟というアプリを起動する。

 登録されているユーザー同士が、無作為に通話できるランダム通話アプリの一種だった。


「諸先輩方は、〝斎藤さん〟を愛用していますから、あえて我はこっちで。えっと、じゃあ、電話をかけてみますねー。誰につながるでしょうか、ワクワクです!」


 トゥルルル。

 トゥルルル。

 ガチャ。


「あ、つながりましたか? 我のこと知ってますか! 我は、バーチューバーの──」

『久しぶりだな、魔王』


(ん? ンンンンンン? なに、このめっちゃ聞き覚えのある声は……?)

(え、まさか──)


『なにを呆けてやがる、俺だ、勇者だ』

「げぇー!? 勇者ぁあああああああああああああああ!?」

『そうだ! 俺こそ貴様をその世界に封印した、救世の大勇者にして永遠の──』

※※※※※ふぁっきゅー!」


 ガチャン。


「はぁ、はぁ、はぁ……危ないところでした。これは事故、いわゆる放送事故。そういうやつです、違う──えっと、いま定命の者たちの記憶は消えましたー! 我が魔法で消しました! では、気を取り直してもう一度、電話をかけてみたいと思います。今度はすてきな人につながるといいなぁ……あ、ちがう、これが初めての通話です! はい、チャレンジ!」


 プルッガチャ!


『……なんで切るんだよ、魔王』

「こんなサプライズはいらないんですよおおおおおおおおおおおおおうおうおうおうおう!!!」


 しょんぼりした声音の勇者に対して、魔王は力の限り絶叫する。

 なんなら血涙をこぼしていた。


「なんなんですか!? なんで我の、この記念すべきユーザー登録者数10万人突破イベントで、よりにもよって異世界のあなたが電話に出るんですか!?」

『うむ、どうやら俺とおまえの間に呪い的な魔法的な? パスが通っているようでな、なんか必ず俺につながるらしい。無作為スゴイな』

「違う……それ、無作為って言わない……」

『それでな、魔王。おまえの配信は全部見てたんだけど──』


(え? 勇者のくせに我の配信見てるとか、ドン引きなんだけど……? ヘンタイ? 勇者ってストーカーだったの……? うわぁ、引くわぁ……)


『……なんかむかついたので単刀直入に物申す。なあ、魔王』


 勇者は。

 きっぱりと、こういった。


『おまえ、バーチャルユーチューバーに向いてると思うか?』

「────」


 勇者の問いかけに、魔王は黙った。

 黙ってしっかり考えて。

 そうして、ぽつりぽつりと、これまでを振り返る。


「あなたに初めてこの世界へと飛ばされたとき、もうだめだと思いました」


(バーチューバーなんて、意味がわからなかったですし、無気力でしたし)


「でも、炎上とか、バズるのとか、それから、人間のいろんなしがらみとかを見て、ちょっと気持ちが変わりました」

『うんざりしたか』


 その逆だと、魔王は言った。


「我は、バーチューバになれて、よかったです!」


 彼女は視線を、編集作業中の相棒プロデューサーへと向ける。

 彼もまた、彼女を見ていた。


(つらいことも、苦しいことも、おなかがひもじいこともたくさんありましたが)

(それでも、にゃむろPと一緒に頑張るのは、楽しかったのです)

(キズナ・ムスビさんとか、たくさんの諸先輩方が、ファンの皆さんが、応援してくれて)

(こんな世界に飛ばされて、いっぱい大変で──でも、こんなところまで、二人で歩いてきて!)


「感謝してるんです。もっと人間のことを知りたいって、思えたんです。だって」


 彼女は、飛び切りの笑顔で言った。


「我の配信を見に来てくれる人は、みんな笑顔になってくれたから! 楽しいって、言ってくれたから! だから、頑張りたいのです! もっと頑張って、バーチューバーになれてよかったって思える、その日まで!」


(そう、そしてなによりも!)


「我は、魔王城おうちに帰るので! 登録者数1億! それを超えてニートニアに戻るためにも、バーチューバーをこれからも続けていきますよ! だから、みんな、チャンネル登録よろしくなのですよー!」


 魔王はちゃっかり、視聴者にチャンネル登録を訴えて。

 そして、勇者との通話を打ち切った。


「帰ったら覚えていなさい、へっぽこ勇者め!」

『また追放してやんよ、ヘぼ魔王が!』


 そんな会話を、最後にして。


§§


 バーチャルYouTuber真字野マオ。

 バーチューバー業界に彗星のごとく現れた、ひとりの魔王。

 彼女のそばには、常に敏腕プロデューサーの姿があったと、噂されている。


「さあ、魔王さん、今日も収録しますよ。さぼるなら昼食を、ヌードルではなくマロニーちゃんにします」

「後生ゆえー、後生ゆえそれだけはー、ナイロンP!」

「にゃむろPです、本当は覚えているでしょう?」


 ときにぶつかり。

 ときに同じ窯の飯を食い。

 そして彼女たちは、戦い続ける。


「お゛はよーございまぁぁーす!!! とつぜんですが、我は──」


 今日もどこかで、彼女の動画は再生される。

 バーチューバーの頂点を目指し。

 元の世界に戻るため、チャンネル登録者数を求め続ける魔王の。


 彼女の物語はまだ、始まったばかりだった──

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我、バーチューバーになります! ~勇者に封印された魔王はバーチャルYouTuberとして活動を始めました~ 雪車町地蔵 @aoi-ringo

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