チンピラ金貸し・渋谷と、それを追う新人女刑事・伊万里がタイムスリップした先は、何と戦国時代だった!?
しかもこの二人、どうやら誰もが知る歴史上の有名人物に「なって」しまったようで……?
怒涛の展開から始まるこの物語、しかし血腥い戦国時代が舞台でも、緊迫感に満ちた陰鬱なムードに飲まれることはありません。
何故なら、この乱世に放り込まれても、主人公・渋谷がこの上なく優しく思いやり深く、誰もを惹き付ける真っ直ぐな人柄で、「戦のない世界」を目指していくから。
藻掻けど足掻けど沈むばかりだった現代と違い、彼本来の実直さはどんどん周りを巻き込んで虜にしていきます。時には「こんな男、見たことがない!」と恐れられることも。
そして、ヒロインの伊万里。
こちらは気の強い勝気な女性ではあるものの、実は歴女であったり寂しさに耐え兼ねて一人涙を零したり、イケメン相手にキュン死したりと、素晴らしく乙女らしい性格で、渋谷やその他同僚のメンズ達と明るく楽しいラブコメを繰り広げていきます。
渋谷の人柄を活かした天下取りへの道に感嘆の吐息を漏らしつつ、伊万里のラブコメターンでは派手に笑わされ……読み始めると、ページを送る手が止まらなくなりました。
二人はこの時代で何を為すのか?
果たして、無事に現代へ戻ることができるのか?
ラストで明かされる衝撃の事実には、素晴らしい感動を超えて、また思わず笑いが溢れてしまうこと間違いなしです!!
歴史創作はどうやって史実というセーブポイントを通過していくか、に見どころがあります。
歴史上実際に起こった事件事故は動かせないけど、資料に残らない人間の心の動きは想像で補います。
そして小説とはその人間の心の動きを表現するものです。
主人公の渋谷雄はチンピラみたいな金貸し。
日々浅草の町で無為に日々を過ごしています。
ヒロインの伊万里春菜はそんな渋谷を追い掛けている女刑事。
彼女は今まで挫折のないストレートな人生を送ってきたがゆえに、法律を軽く見て生きる渋谷を許せない。
そんなでこぼこコンビがある日突然戦国時代にタイムスリップしてしまったから大変!
歴史の知識のない渋谷は現代と同じ感覚でものを言います。
歴史の知識のある伊万里ははらはらしますが、不思議なことに渋谷の言動は周りの人間の心を動かしていく。
歴史創作の作品を見ていると「当時になかった概念の言葉を持ち込むな」という批判を見掛けますが、ここは作者様のうまい采配、なるほど渋谷の言動も当時の観点からしてあながち的外れなことは言っていない。
現代人の感性がいい、というわけではないんです。
あくまで、渋谷の人柄が、人を動かしていくんです。
でも、人の心を動かすものというのは、いつの時代も一緒、ということなのかもしれません。
戦国時代で自分を見つめ直すことができた渋谷は、現代でも違う生き方ができるようになる――かもしれないし、そのままでもいいかもしれない。やっぱり、不思議な魅力のある男なんです。
二人の周りを囲むキャラたちも一癖も二癖もあって本当に毎日更新が楽しみで仕方がありませんでした。
私の推しは加藤清正! いまちゃんがいなくなって彼は寂しい想いをしているのでは? 石田三成とも仲良くやってほしいものです。(笑)
渋谷と伊万里が現代に帰ったあとの家臣がどんな生き方をするのか気になります。歴史の本を読めば書いてあるのですが、この作者様の書かれる彼らも見てみたいです!