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 その夜。僕はマッコイ爺さんの家のポーチに置かれたベンチに腰かけていた。月の明かりが照らしているのは、子供の頃から見慣れた風景だ。でも、今見ると、それは以前見ていた風景とどこかが違っていた。どこがどう違うのか説明はできないけど、これまで何気なく見ていたこの風景の中に、ずっと見落としていた大切なものが隠れているような、そんな感じがした。

 ドアが開いて、聞きなれたTBの足音がした。僕の隣に腰を下ろす。

 首に掛けていたペンダントをはずして、TBは僕に手渡した。そして、空薬莢の中を見ろと、僕に指で示した。

 僕が中を覗くと、白い綿のようなものが入っている。何だろう。

 どこから持ってきたのか、TBが僕に小さな釘を手渡した。釘の先で綿を引っ掛けて、そっと取り出した。ラオスーの訓練がなければ、TB化した僕にこんな細かな作業はできなかっただろう。

 綿の中から小さなガラスでできた容器が出てきた。容器には液体が詰まっている。月の光を浴びてガラスがきらりと光った。

「TB、これは……」

 今日初めてTBが気付いたということは、これはジェシカが持っていたペンダントだ。そしてたぶんこの中身は――。

「M3ファージ」

 ゆっくりと、TBがうなずいた。

 これからの僕たちにとって、父さんが遺したこの小さなアンプルがどういう意味を持つのか、今の僕には分からない。でも――。

「ねぇ、TB。僕とまた旅に出る気はある?」

 TBは、にやっと白い歯を見せて笑った。

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パンプキンとカカオ Han Lu @Han_Lu_Han

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