第5話


『ニュースです。昨日、南A市内で小学生を含む三名の行方不明事件が相次いで発生致しました。事件、事故両方の可能性で捜査しています』


朝、そんなニュースが流れていた。その日はいつもより早く目が覚めた。ーーいや、あまりちゃんと眠れなかったと言った方が正しいのかもしれない。全て、あの得体のしれない者が現れて襲いかかって来た恐怖が今も心に残っていてそれを思い出すたびに震えが止まらないのだ。


心優は、大きくため息をついた。


「あら?今日は早起きだけじゃなくため息吐くなんて珍しいわね。さては、失恋でもした?」


能天気な母親の発言に少し苛立つ心優。


「失恋どころか、好きな人もいないわよ!」


ふんっと母親から顔を背けた心優。


「あら、そうなの」


それよりと、母親は思い出したように話を続けた。


「昨日、心優あなたの学校の生徒が行方不明になったらしいわよ。気をつけて帰ってくるんだよ。まひるちゃんと二人で帰って来なさいよ」


「うん・・・」


昨日のニコルの言葉が頭を過ぎった。


心優は首を横に振り、「たまたま偶然」と自分に言い聞かせて学校へ向かった。




「心優ちゃんおはよう」


「おはよう、まひるちゃん」


「今日のニュース聞いた?」


「うん・・・」


「行方不明の子、隣のクラスの女子らしいよ。怖いよね?」


「うん・・・」


「心優ちゃんどーしたの?元気ないね、具合悪い?」


「うんん、そんなことないよ」


「なら、良いけど。 帰りも一緒に帰ろうね。ウチのママが心優ちゃんと帰って来るように言ってたから」


「うん。ウチも同じだよ」


そんな会話をしながら心優とまひるは学校へと向かった。


そのあとをひっそりと黒猫が跡をつけていた事は心優は知る由もなかった。



臨時の全校集会が行われ行方不明の子についての説明が校長先生より伝えられた。


心優の頭には、ニコルの言葉とあの得体のしれない者が脳裏に焼き付いていた。もしかしたら、その得体のしれない者と行方不明になった事と関係があるのではないかと心優は思っていた。


不安を抱えたまま授業を終えて下校の時間になった時、心優はまひるに声をかけられた。


「心優ちゃんごめんね。今日、私、掃除当番だったの先に帰ってて」


心優は、その時は何とも思わなかったがまひるに言われるがまま一人先に家に帰るのだった。


帰る道中もニコルの言葉と得体のしれない者のことを考えていた。今日一日、心優の頭にはその事だけしか浮かんでこなかった。


心優は何度も首を横に振りながらそのことを考えないようにして駆け足で家に向かった。



ーー数時間後、不安は的中することになる。



電話が家に鳴り響き母親が応対していた。


「はい。ーーえっ、心優は家に居ますが、はい、はい。まひるちゃんがまだ?」


電話を切った母親が急ぎ足で心優の部屋に駆け寄る。


「心優、まひるちゃんがまだ家に帰ってないそうだけどあなた何か知らない?」


その言葉に顔を青い白くさせる心優。


「わ、私、何も知らないよ・・・」


「本当に何も知らないのね?」


「・・・うん」


母親は少し心優を疑いの眼差しで見ていたが部屋から出て行った。



『君がそういうつもりなら別に構わないよ。ただどーなっても知らないよ。君が【魔法使いの代行】を放棄したことにより、君の周りの人々に必ず影響を及ぼすことになるからね』


その言葉が鮮明に頭を過ぎったーー。

気付いた時には心優は、家を飛び出し再び、あの路地裏に向かっていた。


「まひるちゃん、まひるちゃん」


心優の中から、得体のしれない者の恐怖は消え去り今はただ大好きな親友を助けたいただそれだけが今の自分を動かしていた。


薄暗い路地裏、午後五時だというのにそこはまるで夜中ではないかと思ってしまうほどだった。


ゆっくりと奥へと歩いて行く心優。


「まひるちゃん、まひるちゃんいるの?」


心優の震える声は壁に響いたが返事はなかった。


さらに奥に進み、昨日得体のしれない者が出現した場所に着き足を止めた心優。


気温が他の場所とは違い、悪寒が襲ってきた。


心優は、身を丸めながら辺りを見渡す。


「あ、あれはまひるちゃんのーー」


アスファルトの上に落ちていたのはまひるのランドセルに付いていたうさぎキーホルダーだった。


「やっぱりまひるちゃんは、ここに来たんだ」


うさぎのキーホルダーを拾い上げると心優はふと上空を見上げた。


「ーーーー!!」


絶句とは、この事だった。あまりの光景に声を失った。


心優の目に飛び込んで来たのは、蜘蛛の巣のようなものが上空に張り巡らせていて、そこに人間が捕らえられていた。捕らえられている人間は気をしなっているのかピクリとも動かない。心優の頭に再び、あの日の光景が蘇って来た。


「あ、あ・・・」


心優は、腰を抜かし地面に座り込んだ。その影響で上空の様子が更に鮮明に目に入ってくる。スーツを着たおじさん・手に手紙を持ったままの配達途中の郵便局員・ランドセルを背負った女の子、ニュースで聞いた三人だと分かった。そしてもう一人・・・


「まひるちゃん!!!」


心優が叫んだーー。



その声に反応したのはまひるではなく、別の者だったーーーー。



それは、何もない空間から突然影が浮き上がるように現れた。筒のような影は徐々に姿を変えていき、大きな蜘蛛のように変化していった。


「きゃああああ」


心優は、思わず悲鳴をあげた。


蜘蛛は、その悲鳴に反応し、心優をターゲットにして襲いかかろうとしていた。


「ーー友達が捕らえられているのにまた、この場から君は逃げ出すのかい?」


腰を抜かし動けないでいる心優の目の前に黒猫が現れた。


「に、ニコル・・・」


「僕の言った意味が分かっただろ?君が【魔法少女の代行】を引き受けた時点で運命の歯車が動き出したんだよ。君が戦わないとその周りにいる人間に危害が及ぶだけさ。君に拒否権はないのさ」


ニコルは大蜘蛛に正対し牽制しながら心優に話しかける。


「分かってるわ、今度は逃げない!」


心優は、何度も何度も逃げ出したい気持ちを必死で堪えた。


「心優、変身するんだ!変身するトリガーは助けたい気持ちを強く想い、僕の名前を呼ぶんだ」


心優は、目をつむり心にまひるを助けたいと強く願った。そして、


「ニコル変身だよ!!」


その言葉にニコルの身体が光輝いたーー


「マジカルステージオン」


心優の足元に魔法陣が出現し、心優の体は宙に浮いた。


眩い光に包まれているみの服装が変わって行く。黒い髪の毛がピンク色に変わり頭に二つの赤いリボンが現れる。赤のチェックの服が消え変わり白を基調としたフリルが付いたワンピースが現れる。スカート部分は薄いピンク色。胸元には金色の首飾り、足元にはエナメル質の光沢のある赤い靴。そして、手には先端に輝く宝石が付いた魔法の杖が現れた。


「わあ、本当に魔法少女になっちゃった」


「心優、魔法少女の注意事項は覚えているよね?」


「注意事項?」


「・・・・・・」


魔法少女の注意事項とは?

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魔法少女なのは秘密です。 望月 まーゆ @mochimaayu

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