第4話


邪悪な気配を感じたと言うニコルに言われるがまま近所のパトロールに向かった心優だったがーー、


「心優、気を付けて。邪悪な魔力を感じるよ」


ニコルが全身の毛を逆立ててキョロキョロと辺りを見渡す。


「えっ、えっ?」


心優の背中をゾクッと寒気が走り体を小さくして辺りを見回した。


夕暮れの人気の無い路地裏ーー小学生の少女と黒猫はそれが来ることが分かっていたかの様に身構えている。



それは、何も無い空間から突然影が浮き上がった様に現れた。


一目見て心優にもそれが得体の知れないモノで自分にとっての敵だと認識した。それと同時に今まで感じた事のない恐怖が襲って来た。


「ひっ、何なの」


「心優、下がって変身するんだ!!」


ニコルが心優の前に立ち塞がり得体の知れないモノを睨みつける。


「【C、O、D】の操り人形パペットだよ。この周辺のどこかに闇の魔女が潜んでるはず・・・」


「闇の魔女・・・」


黒い筒の様な影をしたパペットはカタカタとまるで操り人形のような不規則な動きをしながらニコルと心優に襲いかかる。


「心優!!早く」


ニコルの体が光輝きパペットの一撃を回避した。


「僕の魔法は人間界では永くは使えないんだ。だから早く魔法少女に変身するんだ!」


心優は首を横に振りながら、


「分からない、分からないよ」


初めて見る敵に不安と恐怖で心優は金縛りのような状態になっていた。


パペットの攻撃をニコルは何度も回避する。


「大丈夫、君なら出来る!さあ、誰かを助けたい気持ちを強く心に刻み僕の名前を呼ぶんだ。それが変身する為のトリガーだ」


「・・・怖いよ。分からんないよ」


あまりの恐怖にしゃがみこみ泣き出す心優。


ニコルは背後で泣いている心優を一目見るとため息つき、


「心優、君自身が魔法少女をやると決めたんだよ。シャルルから【魔法使いの代行】を預かったのは君なんだ。小学生だからとか関係ないよ。一度引き受けたんだ、その言葉に責任をもたなきゃならない」


パペットの攻撃を回避しながらニコルは静かに心優に語り掛けた。


心優にニコルの言葉は届いていないのか、変わらずしゃがみこみ泣いている。この距離でニコルの声が届いてないはずはない。心優自身、【魔法使いの代行】を深く考えていなかったのだ。アニメや漫画の世界のように軽く考えていたのだ。


心優は、必死で戦うニコルに目もくれず立ち上がるとそのまま駆け出した。ーー心優はニコルを置き去りにし逃げ出した。



走った、ただ無我夢中で走った。

運動会よりも体育の短距離走、いや学校に遅刻しそうな時でもこんなに必死で走ったことはなかった。


「もう嫌だ、魔法少女なんて辞める」


そう心に決めた途端に気持ちは楽になった。

自分は、普通の小学生で非現実的な世界の話は関係のないこと。自分が辞めてもまた別の人がやればいい。心優は、現実から目を逸らした。



家まで何とか辿り着いた心優は、ホッと胸を撫で下ろし玄関のドアに手をかけた時に背後から聞き覚えのある声が聞こえた。


「僕を置き去りにして、自分だけ逃げるなんて酷いじゃないか。それでも【魔法使いの代行】の自覚あるの?」


その声に心優は恐怖を感じた。あまりの恐ろしさに振り返る事さえ出来ず、慌てて家の中に入りドアの鍵をかけた。


階段を駆け上り二階の自分の部屋に入ると一目散に部屋の鍵をかけ、カーテンを閉めた。

大きくため息を吐き、


「これで大丈夫・・・」


ベッドに座り込み、安堵の表情を浮かべた心優。


しかしーー、


「何が大丈夫なんだい、心優?」


聞き覚えのある声に再び凍りつく心優の表情ーー。


確かに鍵をかけたのにも関わらず、その声の主は窓をすり抜けて部屋に入ってきたのだ。


「ど、どうやって・・・」


ニコルは、困惑し青い顔をしている心優に不敵な笑みを浮かべながら、


「心優、君は何か勘違いしてないかい?今目の前に起こってることを手品か何かだと思ってるだろ?」


「ーーーー」


「これは魔法で、今起こってること全て現実だよ。目を背けようとも、逃げ出しても君はもうこの現実から逃れることは出来ないよ。これは君自身が選んだ運命だから」


「私は、ただーー」


「残念だけど君に選ぶ権利はないんだ。君に残された権利は魔法少女になって【魔法使いの代行】として戦うこと、それだけだ!」


「そんな・・・私、もう魔法使いになりたくないよ」


「君がそういうつもりなら別に構わないよ。ただどーなっても知らないよ。君が【魔法使いの代行】を放棄したことにより、君の周りの人々に必ず影響を及ぼすことになるからね」


ニコルは、そう言い残すと再び窓をすり抜け部屋から去っていった。


部屋に取り残された心優はニコルの言葉がまだ頭に引っかかっていて気持ちがなかなか晴れないでいた。


「私が魔法使いをやらない事で周りの人々に影響するってどーゆー事だろ?」


ベッドに倒れこみ、


「もー私には関係無いし、どーでもいいや」


心優には何が現実で何が本当なのか分からなくなっていた。


翌日、心優はニコルの言葉の意味を知ることになるーーーー。

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