エピローグ
アリーシャは荷物を小さなバッグにまとめ、家を後にした。
一度だけ、祖父と過ごした家を振り返ると、彼女は自分の意思で歩き始めた。
砂漠の旅は過酷なものになる。方向を見失えば、永遠に村に戻ることもできず力つきる事もあろう。
だが、アリーシャはそれでも自由に憧れる心を抑えられなかった。
きっと、わたしは思うところへ旅立てる。もうわたしを縛るものは何もないのだから。全ての緊縛を、あの人は解いて去ったのだから。
そしてアリーシャは最初の一歩を踏み出す。
誰にも縛られない、新しい自分の旅。誰にも囚われない、新しい自分だけの人生。
そうしていくらかアリーシャは砂漠を歩いた頃、遠くに少し変わったものを見つけた。
アリーシャは予感がした。それを見ておくべきだ、と。
果たしてアリーシャが近づいてみると、それは艶めかしくも美しく緊縛された、サボテンであった。
その結び目は精緻で、どこまでも優しかった。
そうしてそのサボテンのはるか向こうには、また同様に緊縛されたサボテン。
そしてその向こうには雁字搦めにされた大岩が。
きっと、この縄を辿っていけば、あの人がやってきた道がこの砂漠の外へ続いているのだろう。
これはきっと、あの人が最後にくれたわたしへの贈り物。
しかし、アリーシャは眩しそうにサボテンを眺めると、緊縛オブジェとは逆方向に歩き出した。
もう、彼女を縛るものは何もない。歩いていく道筋は、誰にも決められるものではない。
自分自身で見つけていくものなのだから。
『以上、砂漠で進む謎の緑化現象についてでした。…………ここで速報です。アメリカ合衆国にて突如自由の女神が巨大な縄で縛られているのが発見されました。アンコールワット緊縛事件との関連が疑われています。またこの件に関して、大統領夫人の意味深なSNS投稿が話題を呼んでおり––––』
荒縄締太郎、最期の緊縛 じょう @jou-jou
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