あらすじ(背景)
あらすじ(背景)
始まりは世界的な人口増加と異常気象だった。
先進国は年々低下する出生率を上げようとあれこれ特例処置を打ち続け、更に医療が進歩し、高齢化が進んで相対すると人口は増え続けた。
後進国は依然として爆発的な人口増加が続いていた。また、長期間の豪雨や日照りにより食糧難に見舞われた。
異常気象は年々進み、以前から危惧された海面上昇が加速度的に進んでいることが確定的なものになってきた。更にエネルギー問題が浮上した。そしてOPECが「石油枯渇宣言」をして、石油輸出を全面拒否した。
これを聞くと第二第三の産出国であるロシアやアメリカも輸出停止を決めた。そこで第二の石油を作り出そうとその国は取り組んだ。
微生物に石油を作らせる技術やその国の回りに無尽蔵にあるメタンハイドレードの利用だ。
メタンハイドレードは深海の底にあり、海面上昇が深刻的になってきたことを受けて、更に人口地殻上昇計画を打ち出した。メタンハイドレードを採掘しやすくしつつ沈下する国土を上昇させるという計画だ。地殻深くに爆弾を仕掛け、地殻上昇を人工的にする、というものだか、激しい地震という副作用があった。しかし、地震国でもあり、ここ数十年巨大地震に見舞われていたこともあり、予め地震の発生が分かっていれば大地震であっても耐えられる状況が整っていた。そこで巨大地震を伴う国土上昇が行われた。さらに食糧難を早急に解決させるために遺伝子改良した動植物を数々作り出して国民の飢えを凌いだ。
しかし、地殻上昇計画は本来の国土が上昇するだけではなく新たな巨大な大陸を上昇させ、その国の国土は倍以上になった。
世界各地で国土が海に沈み、減少している中で一国だけ国土が増え、また食料にも困窮していないいないと分かると、世界中の羨望と嫉妬と恨みの集中砲火を受けた。特に年々過酷になっていく異常気象に太刀打ち出来る遺伝子改良植物や劣悪環境でも成長し爆発繁殖できる家畜を作る技術は世界の垂涎の的となった。
先進国各国は排他的経済水域を人工的に拡大したとして宣戦布告したが、技術者を生け捕りにしたいが為に直接攻撃は中々出来なかった。戦闘はむしろこの国の技術獲得を目論む各国との三つ巴、四つ巴の戦闘になっていった。何時の世にもある、何かしらの攻撃を理由をこじつけて世界中のあちこちの国で戦闘が繰り返された。
特に師団や艦隊で都市を攻撃し陥落させるような戦争は実質上の国家的略奪行為となっていった。母国の食糧難に対処するためだ。主力となったのは航空機や弾頭ミサイルでの空爆だったが、更に今回の大戦では「攻撃衛星」が新たな武器として加わった。
地上百メートルから二百メートル以上を時速五十キロから百キロ以上で移動する物体を自動的に攻撃する人工衛星で、無線操作で都市攻撃も可能なものが殆どだった。姿勢制御装置の付いた弾頭を落下させるものもあったが、多くは高出力レーザー砲だった。エネルギーとなる電気もしくは光は太陽から無尽蔵に得られるので壊れるまで半永久的に稼働するからだ。多くの国が沢山の攻撃衛星を打ち上げた。またそれに対抗するために多くの国が沢山のナノミニョン箔を大量に敵の攻撃衛星に向けて打ち上げた。ナノミニョン箔とは目に見えないほど薄くて小さい電波撹乱箔だ。敵の衛星のレーダーを使用できないようにするために何百キロものナノミニョン箔を衛星に向けで打ち上げた。このナノニミョン箔は衛星の回りに付着し、衛星と一緒に地球を回れ続けるとされていたが、実際は宇宙空間にどんどん拡散していき、やがてゆっくりと地上に落下していった。地上に落ちた場合は燃え尽きるとされていたが、それも事実と異なった。ゆっくりと堕ちて行く箔は空気摩擦で燃えることはなかった。地上にゆっくり落下したナノミニョン箔は気流にもまれ、中々土や海に落ちることなく、いつまでも空中を浮遊し続けた。結果、空中には大量のナノミニョン箔が舞い散り、地上の電波も一切使えなくなった。電波はせいぜい一キロほどしか飛ばないので、ラジオもテレビも一切使えなくなった。更に戦後西政府がナノミニョン箔を獲物とする微細な金属昆虫を放ち、繁殖能力を持つ金属昆虫がいつまでも地球上の電波を撹乱し続けた。
航空機が一切使えなくなったが、戦争は相変わらず続いた。その頃になるともう戦争は略奪化を一層強めていった。参戦していない無力な小国までもが強国の艦隊や師団の略奪対象になっていった。攻撃理由を後から無理やりこじつけたり、捏造したりと、食料や物資を略奪するために多くの国や人々が犠牲になった。
世界中の軍隊が海賊か山賊と区別がつかなくなる頃、「地球温暖化ハザードリポート」の最悪事態の海面上昇水域を超えても国土水没は治まらなかった。しかも両極の氷はまだ全て溶けていなかった。
既に数十国が水没して消滅していた。各国は軍隊に撤退命令を出して軍艦や戦車は一斉に母国に帰っていった。
そうして何処も終戦宣言や休戦協定など無いままにダラダラと世界大戦は終結してしまった。この国は各国に勝利宣言しようとしたが、無線通信は通じないし、人工地殻操作の影響か、世界各国に通じている筈の光ケーブルも利用できなくなっていたので、勝利宣言するどころか世界がどうなっているのか全く分からなくなっていた。
国内的には敵からの攻撃が無くなり半年ほど経った頃、丁度海面上昇が止まった。地殻操作で水没をかなり防げたが、それでも予想以上の海面上昇があったので、この国もかなり海寄りの土地や町がが水没してしまった。そんな中、どこの国からも攻撃されることも無くなり、海面上昇も止まったことを受け、その日を「終戦日」とした。
終戦日の後も一向に他の国からの連絡も情報も得られなかった。空爆も上陸攻撃も一切なくなって、一年ほど経った頃、この国の国民は他国の人間は全て死滅してしまったと確信するようになり、世界大戦の責任追及する動きが出てきた。そこで遺伝子操作で気味の悪い凶暴な生物を作り出した研究に反対する派閥と地殻変動を起こしたり電波が使えなくなるような機械科学を避難する派閥の対立となり、やがてそれは内戦となった。遺伝子操作反対派が政権を握り、機械科学反対派は反政府派閥となり軍隊の一部を取り込みながら対立した。大戦中もなかったような戦争が繰り広げられ、反政府派は国土の西側へ追い詰められ、西の端で西側政府樹立を宣言した。国は西と東で分断した。戦争は熾烈を極めたが、大戦から五年ほどしか経っていなかったため、物資が不足しており、内戦もズブズブと続き、勝ち負けが定かで無いまま、終戦宣言も休戦協定もなされぬまま、なんとなく停戦となった。国の東西でなんとなくの国境がおかれ、国は分断した。
水龍川軽便鉄道(みなたつがわけいびんてつどう) 相生薫 @kaz19
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