日笹賀日向編 その4



「私を納得させる理由を30字以内で答えなさい」

「いや、あの、その……早く着きすぎて暇つぶししていて、その、中の本屋に寄っていたらですね……ごめんなさい」


 ふうと息を吐き、呆れながらも水無月は笑っていた。


「まあ、いきなり誘ったのは私だし許してあげる」

 でも、来てくれてよかった──と水無月。


 僕の顔を見ながら言う水無月に僕は少し顔が赤くなってしまった。


「ま、まあ約束してたからな」

「その割には堂々と遅刻して来たけどね」

「……ごめんなさい」

 ごめんごめん、冗談よ、と、言いながらとりあえず中に入って目当ての水着を探しに行った。


「すごく広いのね。ここでかくれんぼなんてしたら一ヶ月は隠れられるわね」

「そんな事誰もしねえよ、高校生にもなって。つか、いきなりかくれんぼってなんだよ」

「あら、かくれんぼって知らない?オニが何秒か数えている間に、みんな何処かに隠れて、数え終わったオニが隠れたみんなをさが……」

「知ってる知ってる。何回もやったことがある。そういう意味のかくれんぼってなんだよ、じゃなくて、なんでいきなりかくれんぼの話が出てくるんだよってことだ」


 ああ、なるほど。みたいな顔をして何故か感心している水無月。

 こいつ、勉強の成績はいいのに、なんでそんなことがわからないんだよ。


「こいつ、勉強の成績はいいのに、なんでそんなことがわからないんだよ。このバカ女が……みたいな事、思った?」


 怖! こいつエスパー!?


 というか、自分で成績いいまで言っちゃうってどうなの。まあ、本当に成績がいいんだから仕方ないんだけれど。


「いや、そこまで思ってねえよ。つかバカ女がって、酷すぎんだろ! 」


 うふふと、笑って僕をからかう水無月は少し前なら考えられない姿だった。

 元から容姿がいいのもあるが、刺々しさがなくなってきた分、余計に魅力を感じてしまう。


「それよりどの店に入るんだ?」

「多分、あっちに色々売ってると思うんだけど」


 水無月が指をさした方向には、女物の服屋がずらりと並んでいた。

 確かにその辺りなら売っているだろうけど、女の子と買い物に来たことはおろか、

女物の店に一度も入った事がない僕にとって、

店に入るというだけでも少しばかり躊躇してしまう。


「あーやっぱり、俺その辺見てるから終わったら呼んで」

「えー、二人で来た意味ないじゃん。もしかして二人で入るのが恥ずかしいとか思ってる?」


 ああ、思ってるよ。当たり前だろ。

 ましてや水着だよ?逆に堂々と入っていける奴の気が知れねえよ。

 と、思ったのだが、逆に恥ずかしいと思っていると思われるのも恥ずかしかった。


「いや、そんなことないよ。じゃあ行こっか」

「単純」


 そう言いつつも嬉しそうな水無月。

 まあ、社会勉強って事で入ってやるか。

 断って不機嫌になられるのもなんだしなあ、と言い聞かせて店に入った。


「ねえ、これ可愛くない?いやこっちもいいなー」

 どっちがいいと思う?──と水無月。


 どっちでもいいんじゃないのと答えると

 少しムッとして僕を睨みつけた。

 いやいやどうすればいいんだよ。


「じゃあ……こっち」


 とりあえず白の周りにフリフリが付いた方を指差した。

 水無月は自分の身体に合わせながら、こっちの方が好みなんだと、からかってきた。

 いや、だからどっちでもいいんだよ。と言えない僕は弱い男です。


「気になるのがあったら気軽に声かけてくださいね」


 彼氏さんも、と近づいてきた店員さんは言う。

 彼氏じゃねえよ、と思いながらもまたしても顔が赤くなるのが分かった。

 こんな店に男女二人で入って水着なんか選んでたら、そりゃカップルにしか見えねえよな。

 つくづく店に入ってしまった事を後悔した。

 その後も、色々見てた水無月だったが、他にピンとくるものがなかったのか、


「じゃあ、せっかく選んでもらったしこれにしようかなあ」


 そういって腕に選んだ水着を掛けてレジに向かった。

 良いのか、そんなテキトーで?

 まあ僕がテキトーに選んだと思われるのも、それまた厄介なので何も言わなかった。


 ショップ袋片手に出てきた水無月は嬉しそうに袋を前にして、両手で持ち上げるように僕に見せてきた。


「ありがとうね、神空君」


 夏休みは一緒に泳ぎに行こうね──と水無月。


 突然の夏休みの誘いに少しドキッとしたが、表に出さないように精一杯普通を装った。


「予定が空いてたらな」

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悪魔のささやき 雨音 翔 @chiroru0505

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