第19話 元円卓の魔術師
「……とまぁ、ざっとこんなところだ」
エレンがハルを見つけたところから現在に至るまでを簡単に説明した。ハルとロゼの能力についても軽く触れていたが、ランスローズもサンソンというハゲ頭の男も特に顔を変えることなく聞いていた。ファルツ樹林という森でレンフレッドがやられた場面になると、隣のロゼがしきりに頭を下げて謝っていて、ちょっと健気で可愛いじゃん、と思ってしまった。
「……なるほど。エレン、では結局、見つけた伝導者は一人だったのか?」
ランスローズは椅子に座ったまま尋ねた。
「ああ、私が見つけたのはこのハルだけだ」
「残るもう一人をなるべく早く見つけなければならぬか……」
二人の会話を聞きながらハルは眉をひそめた。
「あ、あの~、さっきからその伝導者って、俺と一緒にこの国に飛ばされたやつのことだよな?」
その質問に周りからの視線が集まる。
「そうだが、何か知っているのか?」
エレンは神妙な顔つきで尋ねる。
「いやそうじゃなくて、俺の他にまだあと二人いるぞ?」
「二人……?!」
「なんと……」
サンソンとランスローズはここで初めて驚いた表情を見せた。
「そんな大事なことはもっと早く言え貴様!」
エレンは舌打ちしハルに背中を向けた。
「……はっ?そんな大事??」
「ハルよ、よく聞くのだ。今この国の首都キャメロットでは、一部のトップの魔法使いが人間を皆殺しにしようと企んでおる。《
「皆殺し……。あ、あぁ……」
ランスローズの話にハルは少し身を引きながら相槌を打つ。
「我々
「なるほど……、じゃあその悪いこと考えてる魔法使いを一緒に倒そうってわけか」
「……ハル。倒すのではない、殺すのだ。彼ら円卓の魔術師は人間への憎しみが強すぎる」
横にいたエレンの声は冷え切っていた。
「……円卓の魔術師って?」
「アレフルーム王国の全てを支配する魔法使いどもだ。もともとは、かつてのアーサー王が国を治めるために協力してもらった魔法使いが始まりだったが、王亡き今、その円卓が実質の統治者になっている」
エレンの説明にハルは少し疑問を感じた。
「ってことはまさか、そいつらめちゃくちゃ強い……?」
「いや、たいして強くはない。私のほうが強い」
エレンは気迫を込めて即答するが、
「や、待て待てトマト、円卓は超強えだろ」
通路を挟んで反対側からサンソンが
「……え、どっち?」
ハルは怪しみながらエレンを見るが顔を背けられる。
「はぁ、私情挟んでんじゃねぇよ……。ランスローズさん、これ言っていいんだよな?」
サンソンは椅子に座るランスローズに確認を取る。
「あぁ、構わん」
「おし。ハル、ロゼ、びっくりすんなよ?」
少しの間を開けてサンソンは話し続けた。
「ここにいる
「……っは?」
「……え?」
ハルもロゼも驚きのあまり次の言葉が出ない。
その様子を見てエレンは慌てて否定した。
「昔の話だ。今はもう違う。それに、もうそろそろ来ると思うが、白虎隊隊長のアイリスは現在も円卓の一員だ」
しかしその言葉がハルたちにもっと大きな疑念を与えてしまった。
「……いや、え? なんで敵のはずの円卓が味方にいるんだよ?」
ハルは戸惑いながらもエレンに説明を求める。
「アイリスの場合は特別だったんだ。あの女は貴様と同じで――」
エレンが話し続けようとしたその時、
「おいトマト、来たぞ、アイリスだ」
サンソンがその言葉を妨げ、後ろの扉を指さしながら告げた。
ハルたちが後方を振り向くと、広間の入り口に黒い艶やかな髪を腰まで伸ばした睫毛の長い細身の女性が立っていた。白い装束に身を包んでおり、
しかしハルとロゼはその女の違和感にすぐに気づいた。広間の入口にある巨大な扉が開いていない。朱雀隊がこの広間に入った後からずっと、あの扉は閉じたままだった。あの女がこの広間に扉から入ってきていないことは明らかだった。
「やっほーみんな、お待たせ~。あ、もしかして、エレンちゃん今あたしの話してた?」
ハルとロゼの警戒をよそに、その女は陽気に喋り始めた。
「あぁ。久しぶりだな。できればアイリス自身の口から話してもらえると助かる」
「いいよいいよ~、ランスさん、今日はお土産話多いぞ~」
そう言ってニイッと笑ったアイリスは広間に置かれてある虎の像の前まで歩いて行った。
遥かなる円卓の理想郷 蜂鳥りり @hachidori77
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