CM

目の前には、本を読みながら何かを考えているらしい北斗さん。興味深いので、近寄って思考を読んでみましょう。

(『隣のキミであたまがいっぱい。』のイチオシポイント……改めてあげようとすると、中々あげられないものだな。如月がかわいい、のは周知の事実だろうし。いや、知らない人もいる可能性を考慮して、かわいさを改めて押し出していくべきか? うーん……)

これは本を読んでいるというより、葛藤していると言ったほうが正しいでしょう。まったく本に集中出来ていないらしい北斗さんの隣の席へ座り、彼へ寄り添いながら本文に目を向けます。

「なにを読んでいるんですか? 北斗さん」

「なにをって、これは……」

(思い切った行動をしてこないでくれないか!? 驚いて変な声をあげてしまうところだっただろう!? って言ったところで、聞こえていても聞き入れてはくれないんだろうな……)

「と、『隣のキミであたまがいっぱい。』っていう、ライトノベルを読んでる」

「へぇ、すごく胸キュンしそうなタイトルですね。どういう内容のものなんですか?」

(し、白々しい!)

そうです。私は白々しいのです。これもすべては、これをすることでもらえる報酬のため。

「えー……人々の思考を読み取ってしまう女子高校生に、『側にいれば他の思考が流れてこない』と言われた故につきまとわられている男子高校生の話、らしいぞ」

「なるほど、まるで私たちみたいですね」

「そうだな」

「表紙のタイトルと被っている月の中にある文字は、読まれている思考の一部、といったところでしょうか」

(えっ、そんなのあったっけ……? うわ、本当だ。目の付け所が違う)

「すごいな、如月は。俺、そこまでは考えて見て無かったよ。たしかにそうみたいだ。凝ってるな、この表紙」

「ええ。でも、この本の魅力は表紙だけじゃないでしょう?」

(う、圧がすごい)

「……そうだな。どのイラストも魅力的だが、俺はこの海ではしゃいでいる女の子が好きだ。水しぶきや水に濡れて透けている制服の感じが、リアリティがあってグッとくる」

「透けてるのが好きなんですか?」

「ちがっ……!」

(いや……! 間違ってはないが、改めて人に指摘されると恥ずかしいものだな!?)

「……まぁ、好きだけど?」

開き直ったらしい北斗さんが、目線を逸らしながらそんなことを言います。

「男子高校生らしい視点でいいと思います」

「久しぶりにそのいじりを聞いた」

「久しぶりに言いましたから」

(……よし、ここはスルーしよう。あまりいじられて話が脱線しても困るし)

賢明な判断ですね。

「それにこのイラストの元になっている『海の日』という話は、本のになる前に連載されていたWeb版には載っていないんだよ」

「書籍版ならではということですか。そういうのがあると、購入しても読んでみようかなと思ってしまいますよね。ほかにも『ならでは』な話は収録されているんですか?」

「基本的には大幅に改稿されているんだけど、特に文化祭、体育祭は追加エピソードがけっこうしっかりしてる」

「ほうほう」

「体育祭では女の子がネコミミハチマキをするシーンが追加されているんだが、なんとそのシーンはイラストにもなっているのだ!」

「それはすごいことですけど、なんか北斗さんのキャラが変わってきましたね」

(俺も言いながら思ってた。慣れないことをするとボロが出るな)

「あと少しです、頑張りましょう」

「あぁ……そしてなにより、Web版では読めなかった女の子視点での文章が読めるんだよ! 普段思考を読んでいる子の! 思考が読めるんだ! これはめちゃくちゃ画期的だと思わないか!?」

「な、なんでそんなに興奮してるんですか」

「その子の考えていることが、いじらしくてかわいいからだよ!!」

「そんなに力説しないでください! 恥ずかしいです!!」

「これがいつも俺が味わっている羞恥です! 分かってくれましたか!?」

「分かりましたけど! 私のこの能力はいわば事故です! 事故を責める北斗さんはひどいです! このコマーシャルでもらえる映画のチケットは私とみかんで使わせてもらいます!」

「ごめんなさい!! 俺もあの映画は見たいので、俺と一緒に行ってください!!」

「……それはそれで映画に負けた感じがして嫌ですね」

「えっ」

「今回ばかりは私も恥ずかしくて死にそうなので許せそうにないです」

「打つ手なし!?」

(真っ赤にした頬を膨らませて怒る如月もかわいいな)

「……なにを考えているんですか北斗さん」

(やっばい)

「……なにも」

「蜜柑ゼリー10個で、手を打ちましょう」

「悪い如月。今月は珍しくピンチなんだ。5個でお願い出来ないか」

「質問に答えてくれたら、8個にしてあげます」

「なんだよ?」

「そんなに私の考えてること、知りたかったんですか?」

「うっ……」

一気に下へ落とされる視線。

(知りたくなかったといえば、嘘になる)

「そ、そこまで……」

(彼女は今となっては表情が豊かになったとは思うが、前は全然感情が読めなかった。だから、その時から彼女は普通の少女だったのだと知ることが出来て嬉しい)

照れたように頬をかく彼の顔は、少し満足げでした。その様子がかわいらしかったので、私の口元には自然と笑みが浮かびます。

「言葉と思考が一致してませんが、概ね満足なので特別に7個にしてあげましょう」

「そうか……ありがとう、如月」

(なんだかんだ言っても、優しいんだよなぁ)

「褒められても、これ以上は減らしませんよ」

「分かりましたって。それじゃ、買いに帰るか」

「はい!」

(そしてやっぱり、如月はかわいい)



『隣のキミであたまがいっぱい。』と改題し書籍化されています。以下情報のページになります。

5月25日には2巻も発売される予定です。よろしくお願いいたします。

https://kakuyomu.jp/publication/entry/2020011602

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