嫌だなぁ。

嫌だなぁ。

私はそう思っていた。小さな頃からお父さんが吸うタバコがどうも苦手で何故吸うのか理解できなかった。

お金もかかるだろうし、臭いもつくし何がいいのかさっぱりだった。

「タバコの何がいいの?」

私は一度だけ父に聞いたことがある。

子供心ながらタバコとは何か、お父さんとは何かを理解しようとした瞬間だ。

「そうだなぁ、何がいいんだろうな。良く分からんな。」お父さんは笑いながら私に言い返した。

良く分からないのはこっちだよ!と言い返したくもなったが、お父さんがそういうのならそうなのだろう。タバコもお父さんも良く分からなかった。分かるのはお父さんが家族の為に頑張ってるということ。それだけなのだ。

それからも父はタバコを吸い続け私は二十歳の大学生になっていた。その頃にはタバコが吸える年齢だったが吸おうとは微塵も思わなかった。やはり、タバコを吸う意義や意味が全くもって理解出来なかったからだ。私は大学の友達にもお父さんにした問いと同じことを聞いた。

「海外のロックスターが吸ってるから。」

「いや、実は高校時代から…。」

「ツレが吸ってたから。」

などなど様々だったがやはり、いまいちタバコには手を出そうとも思えなかった。

何だか、タバコに手を出すのは私自身を否定しているように感じるからだ。その理由も不明瞭だし、タバコを吸う意味も不明瞭どっちつかずだと思う。ただ、タバコを好きか嫌いかで聞かれると即答できる。答えはNO。嫌いだ。幼少の頃からそれは変わりなく私の中に根付いている。だからといって、吸わなくていいという訳でもないような気がする。

何でも、そうなのだがやってみないと分からないというのが世の中の鉄則だ。やる前からぐだぐだと意見を述べるのは間違っている。意見を述べる立場の人間はどちらも体験して意見を述べるべきなのだ。しかし、世の中はどうだろうか?きちんとした統計は取りようがないが、恐らくは片方しか知らないのに知ったかのように意見を述べてる人が多く感じる。私も、その中の一人なのだ。

それから幾年たち私は、仏壇の前に手をあわせ、父の写真に目を向ける。父は癌で亡くなった。タバコを吸い過ぎたせいだろう。父は病院のベッドで静かに世界から断絶された。やはり、タバコは好きになれない。私から、お父さんを奪っていったのだから。

でも、一つだけ、一つだけ言えることはタバコは嫌いだけどお父さんの匂いは大好きだったということ。タバコ臭いお父さんの匂いが大好きだったのだ。

嫌だなぁ。こんな湿っぽくなるなんて。

さて、ともあれ、今日も旦那様の為に家事をしなくちゃ。

私は、窓の外の綺麗な青空にいつものように洗濯物を干すべく足を踏み出す。

そこには、世界の不幸などないかのような綺麗な世界がそこには広がっていた。幸せの匂いに満ち溢れていた。

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