タバコ

白ノ白

嫌われ者

僕は今日も屋上に歩を進める。

昼休みの一時間休憩のタバコそれだけが僕の憩いの場なのだ。

昼御飯は食べない。午後に眠くなってしまうからだ。といっても僕は全くといってもいいほど仕事ができない。

大手IT会社に今年、新卒で入社して今が九月なのにろくにプログラムを組めない。僕はいよいよ会社内で雑用係になりつつある。

会社内で仕事ができない人間は信用がない。

さも、それは僕の人格や生き方全てを否定しているように感じる。

馬鹿にされてるということがひしひしと感じられるし、実際に「あいつ、使えないよな本当に。」という言葉も何度も耳にした。仕事ができないせいで挨拶をしてもパソコンに目を向けて誰も挨拶を返さない。最初の頃はそんなことなかったのに、なんだか悲しくなってくる。

ここの会社にいる人達がプログラムを組むロボットに見えてくる。 スキマ時間を使ってプログラムの勉強するのが馬鹿馬鹿しくなってくる。努力していないということはない。実力が今はないだけ、ただそれだけで僕は嫌われ者なんだ。逃げたくなる。

しかし、今はまだ仕事を投げ出せない。仕事とは生きるということ辞めたとしても次のあてはないしどうしょうもない。そんな、途方もないことを考えながら僕は屋上に着いた。今日も、空は青空で太陽が世界を明るく照らしている。

でも、僕の心はいつもブルーでどしゃ降りの雨が降ってる。世の中楽しいことなんてない。あったとしてもそれはほんの一握りの小さな小さな幸せ。これから、僕は四十年と少しもしくはもっと長く社会と戦って行かないといけない。それは、とても今の僕では見えない世界のお話だ。

喫煙所は少し寂しい哀愁漂う人達がそこにはいる。近年、タバコは害という考え方が強くタバコ離れが深刻だ。世界が、周りがそれだけ健康というものに気をつかっているからだ。

他には、タバコを吸いに休憩に行くのも問題になっているので仕事面にも影響がでできている。タバコは僕と同じように嫌われ者なのだ。ただ、タバコは僕を馬鹿にはしない。心のオアシスを提供してくれるのだ。

僕は喫煙所の灰皿の前にまで歩を進める。四角いアルミの箱の中には水が張っている。この旧式の灰皿が僕の在籍している会社の灰皿だ。僕は、ポケットをまさぐりタバコを取り出す。「ラッキーストライク」だ。箱から一本取りだしズボンのポケットからライターを取りだし火をつける。そうこれだ。これがあるから僕は生きていけるんだ。タバコらしいタバコの味それがたまらない。僕はメンソールがどうも苦手だからすごく有り難みを感じる。 でも、いつかは僕も健康に気づかいタバコを辞めるかも知れないと思うとその一本というのはとても重くなる。気分も重くなる。

昼休憩が終わると再びオフィスワークだ。嫌だなぁ、働きたくない。馬鹿にされたくない。

「おぅ、兄ちゃん今日も頑張ってるな!」

僕はびくっと体を震わせる。急に話しかけられてびっくりしてしまった。

「あぁ、はい。でも、まだまだです。」

返事をする。話しかけて来た人物は掃除係のおっちゃんだ。いつも、お昼時の時間に顔をあわせる。名前も知らぬ掃除係のおっちゃんそれがこの人だ。

「いやいや、仕事に来てるだけでも立派だよ。でも、頑張りすぎには注意しなよ。心も体も壊れちゃうからな。」

「はい、気をつけるようにします。」

僕は何だか、掃除係のおっちゃんの言葉がとても温かく思った。一人でもこの会社で僕を労ってくれる人がいるというだけでやる気がででくる。

「おぉ、そうだ。兄ちゃんこれ飲んどきな。俺からのおごりだ。」

そう、言っておっちゃんから缶コーヒーが手渡される。

「ありがとうございます。頑張ります。」

僕は、どぎまぎしながら言葉を発する。

「おぅ、それじゃ。」

掃除係の名もないはおっちゃん屋上から姿を消した。

僕は泣きそうになった。人と人の繋がりというものはこうも温かく心地よいものなのだと久しぶりに感じた。

さて、頑張ろう。僕は心を引き締め仕事と戦うために屋上を後にする。

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