仕事はそれなりにこなしているし、同棲中の彼氏もいる。
社会的には底辺ではないのに、日々の生活で心には澱がどんどん溜まっていく。
それを洗いざらいぶちまける方法が、彼女の場合は掘った穴に顔を突っ込んで叫ぶことだった。
一見すると奇行だし、彼女の屈折ぶりは度を超えている。
けれども、日々の仕事へのストレスとか、自分勝手な彼氏とか、別れられない弱い自分とか、大なり小なり悶々としたものを心に抱えているのは誰もが共感するところなのではないだろうか。
彼女の掘った穴は彼女の声を、心をひたすらに受け入れる。
けれど、受け止めてはくれないのだ。
何もなかったかのようにいつか塞がるだけ。
虚しい奇行の繰り返しでは彼女の心は救えない。
彼女の心を救うのは────
とにかく激情にまかせ、暴発し、爆発する主人公の心理。だが、彼女は社会的にいたって普通。平凡である。その心理と外面の齟齬を埋め合わせるように、神社の裏で穴を掘って、その中に叫ぶ彼女。
そしてそれを目撃してしまった高校生。彼女はサディスティックな感情から彼のことをいたぶるわけだが……。
とにかく主人公の女性が、激情に任せて暴れまくるので、読んでいる方は不安になるやら爽快にさせられるやらで、飽きが来ない。
ピンボールのように激しくあちこちの壁にぶつかり、跳ね飛ばされ、その勢いで反対側の壁にぶつかる彼女に、読者はハラハラしつつも、物語自体はきちんとした起承転結をもって完結する。猛烈な荒れ球だが、ストレートでストライクを取りに来る物語。