第10話 事件の真相。
嫉妬に狂った女というのは、
本当に醜いものね…。
女子更衣室で自分のロッカーを開いた瞬間、
私はつくづくそう思った。
私の目の前には「ブス」だの「学校に来るな」だの「ピー(放送禁止用語)」だの「ホニャララ(掲載禁止用語)」などと書かれた紙が山ほど入れられている。
私の背後では汚ならしい笑みを浮かべた
二人組の女がニヤニヤとこちらを眺めていた。
犯人は東山梨花と橋本ユリ…か。
私はその事実を確認すると
その紙の山の中の一部を抜き取って
そのまま走って視聴覚室へと逃げ込んだ。
「よし、撮れてる。」
私はロッカーの中に入れたままにしていたスマホのフォルダの中身を確認した。
フォルダの中にはきちんと大量の紙くずを私のロッカーの中に入れようとしている東山梨花と橋本ユリの姿がとらえられていた。
一度美少女に生まれてしまうと
得をする事も確かにあるけれど、
時にはいらぬ災難に巻き込まれてしまう事だって多いのよね。
いわゆる『醜い女の嫉妬』というヤツ。
ほんっとくっだらない!
今回の件もきっとそう。
常に男子生徒がラブレターを入れるのに開け閉めする私の下駄箱は人の集まりが多い分、セキュリティが高い。
教室のロッカーと机もこれまたしかり。
むしろ一番危険なのは…
そう、女子トイレと女子更衣室。
それを見越して半年前から自分のロッカーに音と光に反応して撮影できるように改造したスマホを設置しといて良かったわ。
一応念のためパソコンにつないでさらに画像を鮮明にしてスマホの中へと戻しておく。
…それにしてもこの写真の東山梨花と
橋本ユリのマヌケ顔ったらないわね。
私から言わせれば、この子達の顔の方がよっぽど「ブス」で「ピー(放送禁止用語)」で
「ホニャララ(掲載禁止用語)」だわよ。
そして私はポケットから取り出した目薬を自分の両目にボタボタと用法・用量以上に垂らしまくると、まだ着替えをしている男子達がいるはずの教室へと走って行った。
あとは先程の流れのまま。
ただ一つ違うのは…
私がわざと坂上祐太君にスマホの画像を見せるように差し出したっていうこと。
何故かって…?
理由はカンタン。
それは私が東山梨花が
実は坂上祐太君の事が大好きだという事実をあらかじめ知っていたから。
私が普段休み時間に本を広げているのは
読書なんかではなくただのフリ…。
実は読書をしているフリをして
ずっと休み時間の女子達の会話を
盗み聞きしていたのだ。
だからクラスの誰が誰を好きだとかいう情報も知ってるし、誰が誰と付き合ってるとか、
何ならみんなの妹の名前や、飼ってる犬の名前だって知っている。
そして坂上祐太君が
私の事を好きだというのも
もちろん調査済み。
私は毎日自分の下駄箱に入れられている
ラブレターの全てに目を通しているからだ。
それは何故かって…?
もちろん暇だからよ。
友達のいない私は、習い事の時間以外は
友達から電話やラインが来る事もなければ
授業中に女友達から手紙が回ってくる事もない。
常に暇を持て余している私は
ただただラブレターを眺めては
「この中に一枚だけでも
女の子からの手紙があればいいのに…」
と妄想するのが日課となっていた。
だから坂上祐太君がクラス一のモテ男で、
女の扱いがウマイのも良く知っている。
彼が私によこすラブレターの文面は誰よりも丁寧でこなれた感じだったからね。
だから私が泣けば彼が駆け寄ってくるって事も分かりきっていたの。
あとは東山梨花と橋本ユリが教室に来たタイミングで彼にスマホを差し出して
はい、サヨウナラ~
大好きな人から「ブス」って言われて
本当に可哀想ね、東山梨花さん。
でもどうせフラレるなら早い方が
良かったわよね。
そう言ってケタケタと笑い出す柊さん。
俺はそんな彼女を見て正直驚いた。
俺の知っている柊さんは綺麗で可憐で
どこか儚くて。
男ならば誰しもが全力で守ってあげたくなるような華奢で清楚で可愛らしい人だったのに…。
まさか自分一人でこんな完璧に復讐を成し遂げてしまうような邪悪さを兼ね備えていただなんて…。
いつも窓辺でそよ風に髪をなびかせながら
ハイネやリルケのような美しい文学をたしなんでいるような人だと思っていたのに…。
「ハイネやリルケぇ~?
君は太陽だとか、君は春風のようだ…なんて毎日毎日歯の浮くような台詞で埋め尽くされているラブレターばかり読まされてお腹いっぱいになってる私が、わざわざそんな物まで読むワケないでしょ!」
そう言って柊さんは制服のポケットから取り出した文庫本を俺に向かって軽く投げてきた。
「私が眺めてるのはコレよ!まぁ本の形だけしてればいいから適当に選んだヤツで、中身なんて全然読んでないけど。とりあえず本屋さんで見つけた表紙の女の人が綺麗なヤツにしといたわ。」
思わずそれをキャッチしてしまった俺は中身を確認しようとページをペラペラとめくってみた。
俺の目に飛び込んで来た文面は…
「その時、秀雄が発した熱い吐息を感じて
裕子の体はゆっくりと妖艶によじれはじめた…」
………………………。
「…って柊さん!
コレ、官能小説だよッッ!!」
初恋の人のイメージがガラガラと音を立てて崩れ落ちるのを目の当たりにした俺は、ついでに訳も分からず常に官能小説を持ち歩いている彼女の事を、本当に心から恐ろしいと思い恐怖で震えはじめたのだった。
その美少女、凶暴につき。 むむ山むむスけ @mumuiro0222
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