起死回生の一手

「私にも紹介して、その幼馴染み」

「……」

 普段、先輩らしい振る舞いをする人だっただけに、まさか交換条件を出してくるとは思わなかった。まったく、どうしてどいつもこいつも男に飢えているのだろうか。

 しかしヤエはこの条件を断ることが出来なかった。ミキとは違い、カナには貸しがないからだ。つまりカナにはヤエのためにプリンの件を黙っておく義理がないのである。

 そんなところで再びミキの待ったが掛かった。

「確かにカナさんはアイデアを出しましたけど、それと実際にプリンを作る私が同条件というのは納得できません。と言うよりも、私以外にも紹介されるのは嫌です」

 労力的に見て、ミキの異議は理解できるものだった。しかしカナとしても反論はある。労力は別だ、問題解決のためのアイデアを出したのだからと。

 一人の男を巡って一歩も引かずにあれやこれやと言い合っていると、唐突にヤエに連絡が入る。相手はアイだった。いつ頃に部室へ来るのかというメッセージに対する返信。今から行くよ、と。これにはヤエも慌てた。今、部室に来られるのは困る。まだ誤魔化すためのプリンは作っていないのだ。しかしアイを来させない言葉が思いつかない。ヤエはしばし考えたが、遂に観念して腹を括ることにした。

 素直に謝ろう。

 が。

 ここから想定外の事態へと発展していく。

「待った。じゃあ交換条件の話はどうなるの!」

 カナが言い、ミキもそれに続いた。

「そうですよ。今さらに自白なんて勝手すぎますよ!」

「いや、あんたも最初は正直に謝るべきだって言ってたじゃん」

「もう事情が違うんです」

「まあ、そうだけど……。でも、もう間に合わないでしょ」

 事実、プリンを作る時間は無い。ならば交換条件も成立しないはずだ。

 確かにそのとおりだと思ったのか、ミキはならばと新提案を口にした。

「じゃあ、私がプリンを食べたことにしましょう」

「はあ?」

「だから幼馴染みさんを紹介してください」

「待った。そういうことなら、私がヤエの身代わりになるわ。だから私に紹介して」

「いやいや、なんでそういうことに……」

 私が、私が、私が。

 気付けば、三人がそれぞれに自分が食べたと言い張る事態に。

 そして、そんなところにやってきたアイは三人から自分が犯人だと自白を受けたのだった。


「とりあえず状況を整理したいんだけど」

 アイが言った。

 これにヤエが応える。

 プリンが食べたのが自分であること、そのことを誤魔化すためにカナとミキと取引したこと、そしてその過程でアイの彼氏が浮気していた事実も伝える。

 カナの件を話すとなると、どうしても彼氏との連絡内容を話さないわけには行かなかったからだ。が、正直に言えば、ムカついたからと言うのも理由としてあった。

 これにアイが怒りを覚えたようで、その場で彼氏と別れることを決意。しかし彼女の怒りはそれだけでは収まらない。隠していたヤエにも波及。その仕返しにとヤエが先輩と後輩に隠していたとある事実を暴露したのである。

「二人には話してなかったんだけど、じつはヤエには彼氏がいるの」

 頭の上に「?」を浮かべる二人にアイは告げる。

「ヤエは高校の時から幼馴染みと付き合ってるの」

「な!」

「な!」

 つまり二人が提示した交換条件など無意味だったということであり、そしてヤエは故意にそのことを黙っていたということである。

 当然、ヤエは二人からの非難の対象に。加え、プリンを食べたことでアイからも責められる。孤立無援、四面楚歌。しかし事態に窮したヤエは、そこで起死回生の提案を示した。

「わかった。じゃあ合コンをセッティングするから!」

「相手は?」

「相手は?」

「相手は?」

「もちろん、幼馴染みに頼んで医大生を集めます」

「許す!」

「許す!」

「許す!」

 途端、三人は笑顔。

 こうして旅行愛好会の平和は保たれたのである。

 そんな、どうでもいい女子大での出来事。




          /


 いつも話を作るとき、まずは『書きたい要素や場面』を決め、それらを繋ぎ合わせるように話を組み立てていきます。

 しかしながら本作は『タイトル』を先に決め、そこから話を作りました。

 個人的にはなかなかに実験的な試みだったのですが、そのためにスケールの小さな話になってしまいました。

 とは言え、書いていてわりと楽しめた作品でした。

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嘘つきとホラ吹きの口裏合わせ 田辺屋敷 @ccd

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