先輩の提案

「あのさ、思いついちゃったんだけど」

「なにをですか?」

「今、アイのツイッターを見てたんだけど。あのプリン、先日に彼氏との旅行先で買ってきた物らしいのよ」

「それがなにか?」

「もしかしたら彼氏も同じ物を買ってるんじゃないかなって」

「あ」

 なるほど。彼氏も同じ物を買っていて、尚且つ食べていなければ、それを譲ってもらうことも出来るかもしれない。

 ヤエはすぐにアイの彼氏へと確認の連絡をしようとしたが、それを阻止するようにミキの手が伸びてきた。何事かと見やると、彼女は言った。

「ちょっと待ってください。もしもその話がうまく行ったら私との約束はどうなるんですか?」

「とうぜん無効でしょ」

「えええ、納得できない!」

 先に約束を交わしたのはこちらだ。ならばこちらが優先されるべきだ。

 そんなミキの言葉は尤もだったが、今は後輩の恋愛事に構っている暇はない。ヤエはすぐにアイの彼氏にラインで確認の連絡を取ることに。とりあえずアイのプリンを食べてしまったことを伏せ、相手が限定プリンを持っているかを尋ねた。返事はすぐに来た。内容は、持っているというもの。ヤエはそれを譲って欲しいと頼む。しかし相手は当然のように何故かと理由を問うてきた。さて、どうしたものか。本当のことを言っても大丈夫だろうか。少し悩んだが、結局は正直に伝えることにした。すると相手から爆笑の返事。それもそうだろう。安全圏の無関係者からすれば笑える話だ。しかし当事者にとっては笑えない。なんでもするからと懇願してみる。そんな必死さから勘違いしたのか、相手はとんでもないことを言ってきた。

 突然だが、アイの彼氏には浮気の前科がある。そしてそのことを知っているのは本人を除いてヤエだけ。彼女であるアイすらも知らないことだった。そのため、アイには黙っていて欲しいと彼氏は頼んできた。ヤエとしては友達のアイを裏切るようで嫌だったが、心を入れ替えるという彼氏の必死の言葉を信じ、アイには黙っていたわけである。

 しかし今、その彼氏から『これで貸し借り無しだね』というメッセージが届いたのだ。

 確かにヤエとしてはプリンの件で必死になっているが、まさかそんなことで浮気を無かったことにしようとするとは、まったく理解できなかった。

 こいつはクズだな。

 そう思い、ヤエはアイの彼氏に協力を仰ぐことをやめた。

 となると、やはりミキに頼むしかないか。

「と言うわけで、やっぱりプリンを作ってもらっていい?」

「いやです」

「え?」

「だって、さっき無効って言ったじゃないですか」

「……」

 どうやらお冠らしい。それもそうか。約束を一方的に反故にしたのだから。

「うん、それは悪かったと思うよ。けど、仕方がなかったと言うか、ほら、ね」

 そっぽを向くミキだったが、必死に頼み続けると、遂には根負け。再びわかりましたとため息。しかし追加条件が付けられた。

「いい人を紹介してください」

「いい人って?」

「あはは。ヤエさんってば、わかってるくせに嫌だな~。ヤエさんの幼馴染みですよ」

「……」

 ヤエには幼馴染みがいる。背が高く、医大に通い、顔良し、性格良しという完璧超人。そんな幼馴染みがいるため、ヤエは今までに何度も紹介して欲しいと頼まれたことがあったのだ。

「あんたね、良くもそんなことが頼めるわね」

「でもヤエさんは困ってるんですよね? お願いしますよ。紹介してくれるだけでいいんで」

「こいつ……。だいたい、あいつがあんたを相手にするかはわからないのよ」

「大丈夫です。私、可愛いから」

「なに言ってんだ、この小娘が」

 そんな会話をしていると、カナが「ちょっと待って」と再び割って入ってきた。

「あのさ、アイの彼氏とは話が上手く行かなかったわけだけど、私がアイデアを出したことに変わりはないわけだよね?」

「まあ、そうなりますね」

「つまり、それって私への借りになると思わない?」

「そうなりますか?」

「だから、その借りを返してもらうために私も条件をつけてもいいよね?」

「条件?」

「私にも紹介して、その幼馴染み」

「……」

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