その後

「『しかし、しかし君、恋は罪悪ですよ』」

 事の顛末をリーダーに話すとリーダーはそんな事を言った。

「なにそれ」

「夏目漱石の『こゝろ』のセリフ。高校になったら習うよ」

 習う前に何故知ってる。

「読んだからです。結局はそういう事なんだよ。きっと」

 言葉が足りず理解できない。

「ねぇ、水仙の花。何色だったの」

「え? えっと確か黄色かったよ」

 だから目に入ったのだ。リーダーはそっかと言って、

「教えてくれてありがとう」

 それきり何も教えてくれなかった。

 思えばあれがリーダーと話した最後だったんだ。

 二年に上がって、藤井先生はどこかの学校へ行ってしまった。リーダーともクラス替えで別れてから疎遠になって、花の怪談を聞かなくなった頃、そのまま彼女は死んでしまった。この話もきっと、違うどこかで語られてるのだろう。

 世界にはあたしの知らない物語で溢れてて、知ることが出来るのはたった一辺で。何かを語るには言葉が足りなくて。

 あたしは今になって、黄色い水仙の花言葉を調べた。

「報われぬ恋」

「愛に応えて」

 きっと、これは十四歳だった少年の精一杯の叫びだったのだろう。

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アルバトロスと水仙 小谷華衣 @tessen-hina

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