小話

 はらり、はらりと。ひとひら、ふたひら。ティナリールの西にしては珍しく、この年は雪が舞い降りた。君もこの雪を見ているだろうか。君のいるところの空も、こんな風に鈍く灰色に染まっているのだろうか。

「寂しいな」

 わたしは呟いた。

「寂しいよ……」

 誰にともなく。

 かつて四人分の笑顔で溢れていたはずのこの家に、今はもう、わたししかいない。ただいまを、言う相手も。おかえりを、言う相手も。いつ帰ってくるのかさえ、わからない。本当に帰ってくるのかも、わからない。待つことに、わたしはそろそろ疲れてきていた。寂しさに、もう堪えきれない。

 次の年、ウルゥの村はなくなった。あの雪は、わたしが最後にこの村で触れた雪になった。

 次に雪に触れる機会があったならば、その時君は、果たしてわたしのそばにいてくれるのだろうか。今のわたしには、君の姿を想像することさえ、とてもとても難しい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

涙の歌声 望月 葉琉 @mochihalu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ