涙の歌声
望月 葉琉
序章
序章
――大地を見渡そうよ♪
――一番好きな場所で♪
小高い丘の道、わたしは大好きな歌を歌いながら歩く。辺りで確認できる色と言えば、見渡す限りの青、緑、焦げ茶ばかり。つまりは空に草木、土な訳だけれど……。
「~~……」
こんな見晴らしの良い場所なのに不機嫌そうにわたしの傍らをブンブン飛んでいるのは、ナッティことナルシャ。ここから少し先にある森で動物に襲われそうになっているところを助けたら、ついてくるっていうから、一緒に旅してる。なんと彼女は妖精なのだ! 妖精なんて今となっては伝説上の生き物で、昔は実在したっていうけど、わたしも本でしか見たことなかった。その羽はさながら、東国の折り鶴のようにとんがっていて、なんだかわたしが知っているものより不格好だったけれど。
とにかくその妖精・ナルシャのイライラが、そろそろ沸点に到達しそうだった。
「ティ~ア~~」
ナッティはわたしの顔スレスレの位置で停止して、生来のつり目をさらにつり上げてわたしを睨んでくる。
「んぁ?」
気持ちよく歌っていたところを邪魔されたもんだから、わたし・ティアラの足も止まり、なんとも奇妙な疑問詞が口をついて出てしまった。
「あーのーさぁー、そうやって【これから探検に出掛ける少年】みたいに木ィぶん回しながら歌うのやめてくんない?」
ナッティの視線の先、わたしの手には、さっき言ったナッティを助けた森で拾った落ち枝が握られていた。要はこれを振り回しながら機嫌良く歌っているのが気に食わないらしい。
「え~、なんでよぉ。別にいいじゃない探検に行くようなもんだし」
わたしは見よこれをと言わんばかりに再度枝を振り回し、ナッティに見せつけた。
「恥ずかしーって言ってんのよ! こっちまで幼稚に思われるじゃない!」
「あ! 見て見てナッティ! 漸く人家が見えたよぉ」
いよいよ噴火せんばかりの勢いで迫ってきたナッティをさらりと躱し、わたしは丘の向こうに見えた村へと走って行く。
「に、逃げたわねぇ~」
後にはナッティの怨嗟の声が響いたのだった。
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