第11話
「さて、我が愛しの妹よ。お前の愛しい兄が迎えに来たぞ」
「到着早々何を言ってるんですか兄さんは……家ではともかく、外でそういった言動は控えて下さいと前にも言ったじゃないですか」
「まあそう言うな。私もこの長い時間必死に我慢していたのだから挨拶くらい良いだろう?」
「その挨拶で全員がドン引きするからダメなんですよ……はぁ」
すぐ隣にある我が妹の教室へ颯爽と現れた私は、堂々たる様で彼女を出迎える。なにやらため息をついているが、恐らく授業の初日ということもあって疲れているのだろう。全く、少しは我が妹に配慮して欲しいものである。
呆れたような顔をしていたエミリアだが、ふと私の背後に目を向けると驚愕の表情を浮かべる。
「……あれ? 兄さん、そちらの方は……」
「あ、貴女がロムウェルくんの妹さんですか~? 私、ルリス=サウトバードって言います~。ロムウェルくんとはお友達になりました!」
「……え? 友達? 兄さん、もしかして本当に……!」
「誰が友達だ誰が。私は貴様を友にしようなどと思ったことは無いぞ」
「えー……妹さんにも挨拶出来たんだから、もう友達だよぉ……。それに、勉強も教えてくれるんでしょ?」
「ああ、教えてやる。だから本日からは私の事を先生と呼ぶように。あまり馴れ馴れしくするなよ……む、どうしたエミリアよ」
「いいえ、何でもありません。少し期待した私がバカでした」
先程まで笑顔を浮かべていた気がしたが、やはり気のせいだったのかうんざりとした表情になっている。はて、一体何を期待したと言うのだろうか。
考える私を余所に、妹は何故かサウトバードへと近付く。
「ルリスさん……兄のこと、これからもどうか宜しくお願いします。こんな捻れた性格で口もあまり良くはありませんが、性根はそこまで悪くないので。具体的にはなにかトラブルを起こしそうになったら殴ってでも止めていただけると」
「う、う~ん……殴るかどうかはともかく、頑張ってはみるというか、もう手遅れというか……あはははは……」
「え、手遅れ? もしや兄さん、また何かやらかしたんですか!?」
エミリアは必死の形相になると、物凄い勢いで私に詰め寄ってくる。またとは失礼な。それではいつも私が何かやらかしているような言い草ではないか。私とて、やろうと思ってやっている訳では無いのだが。
「特に何もしていない。強いて言えば向こうから何かはしてきたがな。うむ、やはり私は何もしていない」
「もー、何度も言ってるじゃないですか! 兄さんは毎回毎回暴走し過ぎなんです! 今回は一体何をやらかしたんですか!?」
「まあうむ、話すと長くなるというか……」
事情を説明するのが面倒というよりは、あの男の名前すらもう覚えていない為説明ができないというのがより正しい。どう切り抜けたものかと考えていると、騒ぎを聞きつけたのか、ヒールを鳴らして廊下の先からシェリルがやってきた。
「また君か……まあこの際騒ぐなとは言わないが、もう少し落ち着きを持ったらどうだ? 先ほど君のクラスの担任から聞いたぞ、着任早々厄介な生徒に当たったとな」
「シェリルか。何故ここに?」
「何故も何も、私は教師でエミリアのクラスの担任だぞ。別段おかしなことはあるまい? それに君達にも伝えなければいけない事があるからな……っと、それよりも何かいざこざがあったみたいだが、どうかしたのか?」
「……別にどうもしていないさ。至って元気、問題ない。うむ。本当だぞ」
「嘘は良くないよロムウェルくん。確かにあれはグリムくんが悪かったけど、それでもあんな事になっちゃったんだし……」
「あんな事?」
サウトバードが余計な口を挟んでしまったせいで、シェリルが興味を持ってしまった。有無を言わさぬ口調で彼女が先を促すと、サウトバードは事のあらましを詳細に語った。
「……なるほどな。前々から貴族意識の高い奴だとは思っていたが、まさか奴がそんな事を……はぁ、どいつもこいつも問題ばかりか」
ひとしきり話を聞き終えると、シェリルは呆れたように溜息をついた。確かに、一日学院にいただけで酷い人材に二人も会うとは中々珍しい。私が死んで恐らく百年は経ち、様々なものが変わったと思っていたがどうにも貴族の性根だけは一切変わっていない様だ。
「学院として警告は再三行なっているのだが、どうにも一家総出で思想に染まっている様でな。いくら手紙を出しても梨の礫、面談すらさせて貰えない。情けない事を言う様で済まないが、恐らくこちらからは大した事が出来ないだろう……何か明確な実害があれば話は別なのだが」
「私は良い。それよりも、そういった輩を妹に近付けさせないのが教師の仕事だろう? もしエミリアが罵倒に晒される機会があったとしよう。そうなったら、それこそ私は全身全霊を掛けて暴れるぞ。それこそ世界を敵に回してでもな」
「分かっている……私としても最善を尽くそう。無論、君にもな」
「ぴゃ〜……大胆な告白だねぇ」
「も、もう……兄さんったら」
実際、私は前世の記憶が残っているが故に大して問題は無いが、妹は正真正銘ただの村娘として生きてきた。温室で育った訳ではないが、多くの人からの悪意に晒されて耐えられるとは思えない。
私の前では心配させまいとそんな素振りは見せないだろう。だが、心は間違いなく傷付く。それだけは何としてでも避けなければならない。具体的には、妹を傷付けた奴を一族郎党根絶やしにしてやらなければ気が済まない。最悪の場合を想定して、私は気を新たにした。
「しかし霊機鎧を使っての決闘か……確かに貸し出しの機体はあるが、おいそれと学生の決闘に使えるものではないぞ。いくらグリムが大貴族の子息とはいえ、順番に横入りして無理矢理借りられる筈が無い」
「私は問題無い。『カガリ』があれば敗北するはずも無いからな」
「アレを学生の私闘で使わせる筈が無いだろう! 言い忘れていたが、お前の機体は要観察対象だ。あまり派手な事をすればすぐ様接収されるぞ」
「出来るものならしてみろ。国一番の技術者でも解析や複製は出来ぬと確約してやる」
「くっ……! 一応霊機鎧の所持に必要な国家の登録と資格を発行したのは私だと言うのにこの男は……」
「ふっ、冗談よ冗談。まあ貴様に迷惑は掛けぬと明言でもしておこうか。私も青二才如きに愛機を使うつもりは無い」
「え、ロムウェルくんって自分の霊機鎧持ってるの?」
疑問に思ったサウトバードが驚いた様な顔をして会話に入ってくる。どうやら専用の霊機鎧を持っていた事が随分と不思議な様だ。
「貴様には関係ないだろう。話に入ってくるな」
「辛辣過ぎだよぉ……一応私も当事者みたいなものだし、関係ありますよ!」
「どこが当事者だ。横でまごついていただけだろうに」
「もぉ〜、これでも心配してるのに!」
「余計な世話だ」
全く、こいつは何故ここまで私に絡もうとするのか。友人を作れと言われた手前妹には申し訳ないが、こいつとだけは友達になれそうにもない。馴れ馴れし過ぎて、肌に合わないのだ。
若干うんざりとしながら適当に対応していると、そんな私たちの背後から声が掛かった。
「霊機鎧の調達にお困りの様ですね」
「……!? こ、この声は学院長!?」
振り向くと、そこには確かに元私の給仕、現学院長であるエリンの姿があった。それも、何故か生前と変わらぬメイド服姿で。
「……が、学院長。何故、給仕の服を?」
「趣味です。それよりも話を聞きました。何でも決闘に使う霊機鎧が欲しいのだと」
「いや、あの、ええ……初めての顔合わせがこれか? もしかして私がおかしいのか? メイド服は一般的な服装なのか?」
なにやらシェリルはアイデンティティクライシスを起こしている様だが、まあそのうち治るだろう。こいつは時々、私でも理解の及ばない突飛な行動に出ることが多々あるからな。
「二機程度なら融通が利きます。配布予定の機体をお見せする為、ロムウェル様におきましては私の指示に従って頂きたく」
「分かった……だが、とりあえずその敬語をやめろと先程言った筈だが?」
「善処する、とは言いましたね」
つまり、従わないと。主従の関係が無くなったのか無くなっていないのか、これではまるでどちらか分かったものではない。
しかし面倒事には巻き込まれたものの、久々のしっかりとした霊機鎧に触れるという機会、これを逃す訳には行かない。二度目の生を受け、何の因果か再び霊機鎧と関わる事になった。これならきっと、あの日の夢も──。
「そういう訳だ、先に帰っていてくれエミリア。何、そう時間は掛けんさ。夕飯までには戻る」
「色々と聞きたいことはありますが……分かりました。暖かいものを作って待っていますね」
やはり私の妹は文句無しに可愛い。これならいい嫁として成長する事だろう……いやまて、やはり駄目だ。妹はまだまだ嫁にやるわけには行かない。万が一言い寄るやつがいた場合、私自身が手ずから消し炭にしてやる。妙な虫と変人から守るのは兄としての役目だ。
「……あれ? 私、もしかして蚊帳の外?」
「つまりあれが私服だとしたら私はずっとメイド服と話していた事になる訳で……つまり私がメイド服? あれ?」
そう、例えばこんな奴らとかから、な。
生まれ変わっても、ロボ作り。 初柴シュリ @Syuri1484
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