特に夏休みとは関係のない自由研究における自由の意義について
獅子童 貞臣(シシドウ テイシン)
第1話 著者近影と第四の壁とラノベ
一般文芸とライトノベルを分類する線引きは多々あるが、自分は今回、著者近影に界線を求めてみようと思う。
異論は多々あろうが、ラノベは萌え、蕩れ、もしくはバブみ、そういった読者のフェティシズムに訴求する、言い換えればある種の股間に問いかける要素が大きい。また、ラノベのフィクション性はしばしば強い非日常性を帯びる。
本を手に取った読者の目に入る著者近影が写実的であればあるほど、その現実感が作者の存在を読者に意識させ、空想世界への没入感に対する一定の阻害要因となり得る。ラノベはキャラクターを楽しむ側面が強い。よって物語の紡ぎ手に対する関心、特にそのひととなりに対する関心は相対的に低くなると考えられる。時に作者には匿名性、黒子の役割さえ求められよう。
具体例を挙げてゆく。
著者近影が写真であり、かつ手に取った読者の感覚に照らしてドヤ顔であった場合、イラっと来ることだろう。こうなっては作品に集中することはままならない。
著者近影が写真であり、かつ手に取った読者の感覚に照らして美男美女であった場合、心にリア充爆発しろ!!!可及的速やかに連鎖爆発しろ!!!時と場合によってはしめやかに爆縮しろ!!!という思いが溢れることだろう。こうなっては作品に集中することはままならない。
著者近影が写真であり、かつ手に取った読者の感覚に照らして平凡顔であった場合、その日常性を強く意識させ、どこからともなく「タカシー、ご飯よー!」と母の呼び声が耳にこだますことだろう。こうなっては作品に集中することはままならない。(母の呼び声だけに、ママならない。ぷーくすくす。)
著者近影が写真であり、かつ手に取った読者の感覚に照らして、
・チェックのTシャツをジーンズにタックインし脂ギッシュな頭髪でおかっぱ頭かつ刈り上げられた襟足、瓶底眼鏡のニキビ面でたらこ唇にこけた頬、ひょろりと伸びた長身痩躯は頼りなく猫背であり、何がそんなに怖いのか、時折びくり、びくりと肩をゆらし、ひときわ巨大なバックパックにポスターサーベルを一式差して、腰ポケットの財布はマジックテープ式、履いている靴もマジックテープ式、一方で神経質なまでに切りそろえられた爪と思いの外綺麗な指先の、ある意味勇者
もしくは
・一目で洗濯の頻度が低めと判る裾の薄汚れたジャージの上下に伸び放題、なまはげのような手入れの感じられない髪型をしていてすっぴん以前に肌の手入れに毛ほどの興味もなく目の下には不吉な隈がくっきりと浮かんでおり、履いているのは100均サンダル、付け爪を疑うほどに伸び放題の爪、手の甲の、くるぶしの、首元の褐色は日焼け?それとも?さらにはゴムの緩んだ上着のラウンドネックからは元は駱駝色であったであろう垢にまみれ鼠色がかったそれはラベンダーグレー?アッシュ?な感じのブラ紐がチラリな、ある意味聖女
そういったステレオタイプを想起させる面立ちであった場合、ヒーロー・ヒロインの俺TSUEEE!!!展開やザマァ展開を読み進めるうち、心にいたたまれない気持ちが溢れ、思いがけず溢れた涙に視界が滲むことだろう。こうなっては作品に集中することはままならない。
著者近影が写真であり、かつ手に取った読者の感覚に照らして明らかに背景が透けており、思わず著者紹介を見ると生没年が記載されており、没年以降も新作の刊行が続いている場合、思わず背筋が凍り、鳥肌が立ち、背後が気になり、部屋の隅が気になり、ちょっとした暗がりが気になり、家鳴りが気になり、夜トイレに行けなくなり、おねしょの憂き目を見ることだろう。こうなっては作品に集中することはままならない。
著者近影が写真であり、かつ手に取った読者の感覚に照らして明らかに総理大臣や大統領、国王、第一書記、PTA会長、職場の上司であった場合、漠然とした言葉にできないもやもやを覚え、寝つきが悪くなり、寝不足の日々が続き、医師から睡眠導入剤の処方を受けることだろう。こうなっては作品に集中することはままならない。
著者近影が写真であり、かつ手に取った読者の感覚に照らして明らかに名状しがたいものであった場合、あなたはサイコロを取り出し正気度ロールに臨む。あなたはどこからともなく現れたコズミックでホラーな100面ダイスを振る。そしてあなたは……こうなっては作品に集中することはままならない。
著者近影が写真であり、かつ手に取った読者の感覚に照らして明らかに猫であった場合、その愛らしさに悶え苦しみ、床を転げて椅子の足に後頭部をぶつけて別の意味で悶え苦しみ、物音を聞きつけてやってきた妹(もしくは脳内妹)に白い目で見られることだろう。こうなっては(年長者の威厳が気になり)作品に集中することはままならない。
著者近影が写真であり、かつ手に取った読者の感覚に照らして明らかに叶わなかった初恋の人であった場合、動悸、息切れ、めまい、偏頭痛、不整脈、吊り橋効果、プルースト効果、トムソン効果、チョコ〇ート効果が現れ、不意に蘇るほろ苦くも甘やかな想いは事象の地平面から宇宙の事象的地平面へと昇華し、ボーズ・アインシュタイン凝縮することだろう。それは新たなる宇宙の開闢。あ…ありのまま(中略)何を言っているのか(後略)。こうなっては作品に集中することはままならない。
これらの例から帰納的に推論し、ラノベ作家と文学作家と読者層の関係は職人と芸術家と購買層の関係に類比し得ると結論する。
尚、本文執筆後、「ラノベ 著者近影」で検索すると幾つか先行研究が存在していた。関心のある方はググるよろし。
ところで、タイトルで触れた第四の壁とは作品世界と読者の内面を隔てる壁であり、具体例を挙げるなら、ルイズコピペが分かりやすいだろう。脳内彼女や脳内姉や脳内妹や脳内義母や脳内嫁や脳内ホモは壁の向こうから拉致してきた存在と言えるかもしれないし、メアリースーは作品世界への殴り込みとみなせる。
ついでに、本文とは関係ないが、ねとらぼに「やっぱ声優さんってすげぇ!! プロの声優が「ルイズコピペ」を本気で読んだらどうなるの?「うわぁあああああ」「クンカクンカ!」「スーハースーハー!」の本気ボイスが降臨する……?」という企画があった。俺、この文章書き終わったら聞きに行くんだ。
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