#02
「晴天 墓。黒髪白肌の少女。安らかに海に還らんことを」
「顔を避けて凍結。それは意志を持っているのか」
「曇天 まだ平原。瓦礫はあるが建物はなし」
「晴れ 高層ビル群の廃墟。侵食はひどいが大丈夫だろう」
「数日間は此処を寝床とする予定」
「曇天 墓2つ。父子か。建物近辺はやはり多いのだろうか」
「安らかに海に還らんことを」
「曇天 墓。激しい侵食。性別がわからない」
「同日 墓3つ。建物近辺はやはり多い模様。侵食もひどい」
「どうか安らかに」
「曇天 そろそろ休息が欲しい、何も生きた痕跡のない場所へ行きたい」
「<破片>の予兆。あと3日は此処に留まらねばならないのか」
「曇天 出られそうな時に探索。また墓」
「そろそろ<破片>が来るか」
……………
<破片>の兆候が現れてから、もう3日経った。
僕の覚えている限りの記憶とこの手記の記録を照らし合わせると、兆候から3日以内には<破片>が来ている。
あたりが雲に覆われ、空にガラスのような、きらきらとした膜が張られるまでが3日。それから一気に雲が引き、雲ひとつない晴天となったところで<破片>が降る。
「それはまるで乾いた空が割れるようだ」、と手記にはメモがあった。
既に空が膜に覆われて3日経ったのに、<破片>が降る予兆どころか、雲がひく予兆すらない。黒い雲がまだ立ち込めたままだ。
しかし<破片>が来ないからと言って、無闇に外を出歩くのは避けたい。
<天災>をほぼ無傷で乗り越えたとはいえ、その余波とも言える<破片>がこの身に刺さればかなりの支障をきたす。
おそらく、死ぬ。
僕が埋めて来たような、物言わぬひとたちのように、全身を破片に貫かれ、鉱物に侵食されて、溶けない氷にその身を包まれて。
今まで葬って来たモノを思い出して、僕はゾッとした。
<破片>は、寄生虫のように宿主の体を徐々に侵食する、と聞いたことがある。
僕が葬っているのは、そんな<破片>に完全に支配され、半分鉱物の塊と化した肉塊。
いわば抜け殻だ。
僕の左上腕部にもかけらが刺さった跡がある。
その当時の記憶はほとんどないが、身体中を鉱物に侵食されるあの感覚だけは忘れようと思っても忘れられない。ぱきぱきと軽い音を立てて、体がだんだんこわばって、背中にひんやりとしたものが通って————
あの時からずいぶん時が経つが、そういや未だに僕の体は氷になっていない、とふと考えた。
どうしてだろう。一箇所しか侵食されてないのはあるが、僕が見たひとは、刺さってから数分で鉱物になったのに。
あれからどれだけ時間が経ったんだろう、月の満ち欠けがひとまわりするぐらい?季節がひとまわり?それとも————
————も……、ぃ……よ。
声が聞こえた気がした。
誰だ?
誰かいるのか?
振り向く。
しかし、そこには、微かな光を浴びて、砂埃と<破片>のかけらを被った、本の山があるだけだった。
気のせいか。
気のせいだといいが。
今までの記録と記憶を照らし合わせると、建物内にも人がいることがあった。
もしまだ生きている遺体なら、僕が葬ってやらなければならない。
どうせ外は<破片>がくる可能性もあるし、建物内を探索しようか。
膝についた埃を払い、僕は立ち上がった。
『目が潰れそうなほど半透明な白の世界の隅で』
#02 スニトリミヤ
to be continued
群青が海に凍みる 斎藤 凍琉 @Ryo_RACO
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