第32話 憂鬱vs色欲

俺の目の前には、大量の白虎が迫った。これで終わりだ…。そう思った瞬間、聞き覚えのある声が響き渡った。


「ホーリー・ノヴァ!」


すると目の前には光の柱が現れ、白虎を一掃した。

そして、俺の前に二人の影が映った。その髪は金色に光って美しく靡き、いい匂いを漂わせた。


「ひどい顔してるわよ、龍真!」


「お前は、エルゼ、もう一人はルイ。」


「お久しぶりです、龍真さん。」


「なんで俺の邪魔をした、もう少しで俺は殺されるはずだった。」


「もう、あなたどうしちゃった訳?悪い女にでも当たった?目が虚ろだしね。」


「お主ら、妾の戦いを邪魔する気か。」


「邪魔するって言っても、私の仲間が殺されかけてたから救っただけだよ。」


「まあ良い。お主らも纏めて葬ってやる。」


そして、レミスは魔法陣を展開させた。エルゼは相手の強大な魔力にも焦る様子を一切見せなかった。


「ルイ、魔法を防いで!」


「分かった。」


するのルイの目は赤くなり、異常な速さでレミスに迫り、腹に蹴りを入れた。その攻撃はレミスのみぞおちに入ったようで、腹を抱えたまま倒れた。


「お主から魔力を感じないと思ったが、お前はFランクの魔獣か…。しかし、Fランクに不覚を取るとは…。」


「光属性魔法 ホーリー・ノヴァ!」


レミスは防御魔法を展開できないままその攻撃をもろに受けた。レミス魔力干渉をもろに受けたらひとたまりもないのである。


「うっ、何じゃこの感情…。愛しのエルゼ様、何なりとお申し付け下さ…い。」


エルゼはそう言っているレミスを見て微笑を浮かべていた。エルゼの魔力アビリティは【色欲】魔力干渉を受けたものはその人に惚れ忠誠を誓う。かなり厄介な魔力だ。良い意味であるが…。


「じゃあ、龍真の魔力干渉を解いて。」


「分かっ……た。畜生!妾が何故かのような女の言うことをのこのこと聞いてあるのじゃ!体が言うことを聞かぬ…。魔力……解除。」


そう言った瞬間俺の体は急に楽になり、心にのしかかっていた憂鬱感が一気に晴れた。そして、俺の顔色もますます良くなって行くのが分かった。


「形成逆転だな…レミス。エルゼこいつをどうする?」


「うーん…。あなたの魔力でまず無力化したら?」


「了解。」


俺はレミスの頭に触れ、自分の魔力を流し込んだ。その後、魔力をゼロにし無力化した。この無力化も長く続く訳ではない。俺の魔力が他者の体内に漂える時間が決まっている。それは魔力量にも関係するが、大体1時間で俺の魔力は完璧にレミスの体内から消失する。


「お前は何でここに来たんだ?」


「レイン共和国に飛行船が止まらない期間が長く続いてて、気になって調べてみたら国で不穏な動きがあるってことでね。調べに来た訳。そしたら、あなたがあの様だったから助けたのよ。」


「そりゃ、ご苦労さんのこと。でも、本当に助かった。感謝している。お前はこれからどうするんだ?」


「内政干渉はあまり好ましくないから、この戦争に関わっているとされている裏ギルドを突き止めるつもりよ。あなたは何かしなきゃいけないことがあるんでしょう?後のことは私とルイに任せて行きなさい。」


「一つだけ言っていいか?」


俺はそう言った途端急に気恥ずかしくなった。そしてアタマが真っ白になり言いたい言葉がどんどん抜けていきそうになったが、必死にそれを抑えて言葉を発した。


「ちゃんと向き合えなくて悪かった…。」


そう言って俺はすぐに振り返り、アスカが走っていった方に走り出していった。


「こっちの言葉だよ…。」


エルゼはやりきれないような顔を浮かべていたが、同時に顔色が明るくなっていった。


「龍真、頑張って!」


そう言った彼女はどこか儚しげで、顔に悔しさを浮かべていた。




レイン共和国はかなり劣勢になりつつあった。それはこの国のトップディアスの想像を遥かにこえていた。ディアスは第三勢力の裏ギルドの存在を加味していなかった。しかし、その勢力図を塗り替えるかのごとく革命軍には新たな脅威が立ちはだかりつつあった。


「お前たちは、レイン共和国の指折りの魔道士…。

『雨の四将』!全員がSランクの強者揃い。」


革命軍の1人の男がそう大声をあげた。そしてその声が伝播すると軍に動揺が走った。


「みんな怯むなっす!落ち着いてやれば勝てるっすよ。この数ではたとえSランクでも勝てないっすよ。」


「そうだ!Sランクなんて知ったこっちゃない。」


ミリナは軍の指揮を落とさぬよう、声をかけていたが内心ではかなり恐怖を感じていた。いずれは戦うことになるとは感じていたが、この相手のただならぬ気配に怖気付いていた。そして、ミリナの前には白髪の男が現れた。


「おい、女…。お前が扇動者か。俺の安眠妨害はな、万死に値するぞ。」


「それは怖いっすね。てか、いつのまに私の前に来たんすか?」


「お前には関係のないことだ。俺は早く仕事を終わらせて寝たいんだ。」


「あの噂は本当だったようっすね。白髪の夢魔、

グライ・イーター。」


その刹那、ミリナとグライの間には激しい閃光が走った。

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転生した元ボッチの俺は異世界魔道士として無双しているのだが すだちレモン @bsk389249

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