第31話 再来のレミス

〜官邸内〜

官邸内では、革命軍の攻撃により、混乱に陥っていた。しかし、この男は落ち着いていた。それは紛れも無いこの国の総督ディアス・ユースフォードだ。


「総督、ご指示を!」


「まず、官邸内の攻撃を止めたい。そのため特殊部隊ACLを防衛に当たらせよ。そして、西軍、東軍に救助を要請、革命軍を挟み撃ちにしろ。お前らに言うが、慌てたら相手らの思う壺だ。冷静に落ち着いていれば、勝機は自ずとやってくる。」


「了解!」


そう言ってディアスは、隊の指揮を高め、ことに当たった。彼は大きい黒い椅子に腰をかけ外を見渡した。

外は戦火が上がっていた。


「革命軍がどんな戦力であろうと、私のこの国の軍には勝てない。無駄な足掻きだ…。」


そう言って彼はニヤリと笑った。彼の目には勝利しか見えていない。勝利、それはディアスの生きる指針。

何事も勝利しなければ何ももたらさない。


―――――――――――――――――――――――――――



俺とアスカは死に物狂いで地下街を抜け出した。そして、出た瞬間地下は崩落し、跡形も無くなった。


「危ねー…。」


「本当そうね。そう言えば、あなたはどちらの味方をするわけ?政府軍と革命軍どちらの。」


「味方ね…。別にそんなのは意識はしてなかったが、俺はまんまとはめやがったミリナをぶっ潰す。」


「やっぱ、そうよね…。」


「急ぐぞ!」


そう言って晴れ渡ったレイン共和国の街を駆け抜けた。街はやはり何度見てもこの国の経済力を伺わせた。黒い高層ビルに、整備された道路、綺麗な住宅街、どこをどう見ても革命軍が出るほどの経済状況ではない。そして、俺たちの前には巨大な魔力が迫ってきていた。いきなり、めんどくさいのが出てきたかもな…。

その相手は赤い髪の幼女、レミス。謎の仮面の男であった。


「お主ら、また会ったな。高い魔力を感じ来てみたがまたとは…。」


「見逃してくれるのか?」


「お主らがどちらの味方につくかじゃな…」


「お前の想像に任せる。でも、どちらであったとしてもお前は俺と戦いたいんだろ。」


「その通りじゃ。良いか?アルブラッド」


「好きにしろ。俺はお前らの戦いには興味がない。

レイン共和国西軍を制圧してくるだけだ。終わったらすぐ来い。」


そう言って、アルブラッドという男は俺たちの前から姿を消した。しかし、俺は勘づいていた。あの男がかなりの強者であるということに…。そのため、戦わずして良かったと少し安心した。


「アスカ、先に行ったろ。すぐに終わらせる。」


「わかったわ。負けたら承知しないからね!」


「負けるわけないだろ。」


「随分と余裕のようじゃな。」


「余裕?見当違いも甚だしい。俺は今心臓バクバクだぞ。」


「まあ、良い…。妾も本気で行くぞ!」


レミスの目は本気であった。俺に屈辱的な負けをし、勝とうと躍起になっている。そういう人間はかなり強い。それはどの世界でも変わらないだろう…。


「悪魔の教典上巻、名は『ベルフェゴール』妾に力を与えよ。」


レミスがそう詠唱すると、手元には黒い古びた本が現れ、レミスを魔法陣が覆った。すると、レミスは黒い羽織を纏い、魔力が桁違いに上がっていた。


「お前のそれは何だ…。」


「八の枢要罪の境地、悪魔降臨じゃよ。妾のベルフェゴールは怠惰にも共通しているからな。だから、上巻じゃが…。」


俺は実力の違いを突きつけられた。この体を震わすような異様な魔力…。


「火属性魔法 白虎の蒼炎」


すると、俺の周りに青い炎を纏った白虎が現れ、襲いかかって来た。その青い炎はけたたましく燃え上がり、暑さが身にしみて感じた。


「水属性魔法 水波!」


俺を取り囲むように水の波が現れ、白虎の炎を消しにかかった。しかし、白虎は水に濡れようとも炎は消えなかった。


「何でだ!」


目の前には何体もの白虎が迫っていた。このままじゃ、確実に負ける…。じゃあ、どうすれば…。

そして、俺は一か八かの賭けに出た。


「無属性魔法 グラビティ・ゼロ」


俺に襲いかかる寸前、為すすべなく白虎は浮き上がった。俺はその後近距離で水波を打ち、白虎を倒した。

一つの魔法がこの威力だと先が思いやられるのだが…。


「流石じゃの…お主。しかし、次の攻撃はどうじゃ?」


「雷属性魔法 雷牙!」


雷を纏った狼が二匹現れ、俺に目掛けて突進して来た。そして、二匹の狼は俺に噛み付いた。

しかし、俺の姿はゆらゆら幻影になって消えた。


俺はビルとビルの間の小道に逃げ込んだ。そして、息を整えた。俺の魔力反応ですぐに場所は特定されてしまうが、作戦を考えないとかなりきつい。俺の魔力はもうレミスに干渉してない上、今のレミスは桁違いに強い。いくら強くても、俺の支配でなんとかできるはずだと思うが、何かしら俺の魔力を与えなければならない。


「闇属性魔法 極黒の矢!」


俺はレミスの死角から無数の矢を放った。しかし、そのレミスの姿は幻影であった。俺は完全に油断していた。そして、後ろを見るとそこにはレミスがいた。


「チェックメイトじゃ、火属性魔法 爆撃!」


俺はレミスが放った攻撃により、数十メートル吹っ飛び壁に直撃した。当たる直前魔法で威力を軽減したものの、かなりの衝撃であった。また、負傷していた腕にも負荷がかかった。


「妾の魔力アビリティも進化してるじゃろ。前は体のだるさによる戦意喪失であったが、今回のは妾の魔力による人格破綻じゃ。」


俺の目は次第に虚ろになり、体の魔力もどんどん抜けていった。


「レミス、俺を殺してくれ…。」


「ならば、望みどおりやってやろう。最大火力の白虎の蒼炎をな…。」


そう言ってレミスは巨大な魔法陣を作り出した。そして、俺はそのレミスの攻撃をただ呆然と見ていた。


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