エピローグ おまえ

 おまえのことが憎くて堪らなかった。父親に叩かれているおまえを見ると、胸がすくような気持ちになった。おまえは、父親にしている。

 思春期に入ったおまえは、父親のことを男性としか思えなくなった。おまえが求めている愛情は、父性の愛などではない。愛欲だ。

 おまえは、父親に殴られると、決まって夜な夜な自分を慰めている。おまえのような汚れた女が自分の腹から生まれきたなんて、何かの間違いだろう。

 ある日の午後、学校から帰ってきたおまえを、散歩に誘った。最寄り駅からさらに先に10分ほど歩くと、公園がある。おまえとわたしは、ぎこちない会話を辛うじて継続させながら、歩いた。

 池があった。

 おまえのような汚れた女をぶち込むにはお似合いの、汚れた池だった。着衣のまま突き落とされたらまず助からない、ちょうどいい濁りと深さだ。 

 事故に見せかけて、殺す。

 おまえは、池の柵に手をかけている。

 さあ、突き落とそう。そう思った、刹那だった。

「わたしを殺す気なんでしょ、お母さん」

 おまえは振り返ってわたしを見た。

 外を向いた右目の醜い瞳が、涙を流していた。

 おまえはわたしの腕を掴み、力任せに放り投げた。

 わたしは柵を乗り越えて、頭から池に落ちた。

 ヘドロのような汚水が、呼吸器にまとわりつく。

 もがいてももがいても、水面に出られない。

 おまえを見た最後の姿は、もうわたしに背を向けていた。

 視界が、灰色になる。

 ずぶずぶと、沈んでいく。

 わたしは最後に、わたしの娘の聡子が、呪われるように強く願った。

 わたしの意識は、そこでぶつりと断絶した。

 

 

 

 

 

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弑するニンフォマニア ひどく背徳的ななにか @Haitoku

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