昼寝探偵は暑いのが嫌い

人を殺すと書いて殺人。

法律的にも、人道的にもやってはいけないと分かっていても殺る人はいる。

だけど悪いと分かっていても殺さなくてはならない理由、意味は殺す人にはある。


七月十日午前十時 事務所

外の暑さに負けないようにクーラーを効かせ、仕事が無いのでパジャマ姿でソファに寝そべってテレビのニュースを真面目に見ている堅司に「暇」と話しかけた。

帰ってきた返事は「そうっすね」。

この野郎。誰のおかげでこの楽園にいられると思ってやがる。

私は床に体を落として芋虫のように這いずってゲームのコントローラーを手にとった。

これを軽く投げつけて構ってもらおう。暇だし。

寝そべったまま狙いを定め、バスケのゴールに入れるように投げようと思ったその時、インターホンが鳴り響いた。

ネットショッピングはしてないから宅配便じゃない。セールスはお断りっていう紙を貼ってるから多分それでもない。依頼は来てないからお仕事じゃない。

一体何だろうと考えつつ堅司に玄関に向かうように言った。

私がソファに戻り、また寝そべっていると堅司が玄関に向かって数分もしないうちに戻り、急に仕事が来たとのこと。

内容はなんと「殺し」。詳しい事情は中で話すらしい。

私は殺人事件の解決…というより殺害現場が非常に苦手なので断ろうとしたが依頼人は報酬をたっぷりと出してくれるらしいので急いで着替えることにした。


依頼人の名前は長谷川勝也。長谷川食品という聞いたことがない会社の社長で年齢がなんと二十八と驚きの若さ。

見た目も年相応といった感じで俳優に一人はいそうな顔立ち。

性格は真面目で依頼内容はなんとプリントされている。


「口で説明すると長くなってしまうので用紙にまとめておきました」


書いてある内容はこんな感じ。

七月五日日午後三時、会議室で新商品開発の話し合いをしていると女性社員が慌ててドアを開けて入ってきた。用件を聞くと外に死体があるとのこと。見に行くとそこには頭から落ちたのが分かる死体が。僕は急ぎ警察を呼び、対応してもらったところ自殺と判明。

だが僕はそう思わなかった。何故なら死んだ星野雫という女性(二十五歳)は自殺をするような女性ではないからだ。理由としてあげるなら彼女は一ヶ月後に結婚を控えていて希望に満ち溢れていたからだ。性格もとても良く、仕事もできて頼られていた。そんな彼女が自殺なんてするわけがない。警察の方が頼りないというわけではないが死んでしまった彼女のためにも絶対に殺した犯人を見つけ出さなければいけない。


「なるほどね。原因は嫉妬か恨みかしらね」


「ありえません!だって彼女はとても優しく、チームの皆から便りされている女性でしたから!」


「ふーん。やたらその彼女のこと気に入ってたのね、これは失礼」


となるとやっぱり女性関係か。


「それで…引き受けてくれますか?」


「ええ、出来る限りのことはやるわ。邪魔さえしなければ。ね」


「邪魔なんてしませんよ!自由に調べてください」


「それはどうも。私達が調べてる間仕事はどうするの?」


「犯人が分かるまで社員を休ませています。もう少しで規制が解除されると思うのでそれまでですが」


事件が起きたのは五日前。となると早く行かないと得られるものが得られなくなってしまう。

私は堅司に依頼人の携帯番号と会社の電話番号をメモらせて依頼人に帰ってもらった。


「さて、行くわよ」


「次郎さんに連絡取らなくていいんですか?」


「あの人ならどうせ現場にいるでしょ。ほら、さっさと車に行ってエアコン効かしてこーい」


「わ、分かりました」


堅司はそう言うと急いで飲み物などの準備をして外に行った。


午前十一時三十分 長谷川食品入口


日傘をさして駐車場から正面入口、規制線の前まで行くと何人か警察がいた。

実を言うと事件に顔を突っ込むのは一度や二度の話じゃないので知ってる顔は何人かいる。問題は次郎がいるかいないか。

近くにいた知り合いの警察の一人に話しかけているか聞いてみると「いない」。

依頼人に頼まれたと言うとあっさりと通してくれた。

現場に行くと血痕とチョークで書かれた被害者が残っている。

長谷川食品はビル十階建てで見上げてみると落ちた方向すべての階に大小の窓がある。

逆側に回ってみてまた見上げるとすべての階に窓があった。

裏側から落として正面まで運ぶという方法もあるけど血痕が一切なく、危険性が高いからその可能性はない。


「正面にしか血痕がないということは誰かが落としたと見せかけて実は殴り殺したのではないでしょうか?」


「どうかしらね、死体を見てないから『こういう死に方をした』っていうのは断言できないから何とも言えないわ。死体なんて見たくもないけど」


私は何度か死体のある現場を見たことがあるがどうにも慣れない。

一度目の嘔吐に比べればマシになったけど吐きそうになる。

建物の中に入り、案内図を見ると「こんな部屋いるのか?」と言いたくなる部屋がいくつもある。

特に娯楽室とシャワー室、仮眠室に至っては残業、寝泊まりさせる気満々。


「いい会社ですね、娯楽室でコミュニケーションをとってチームワークを強化ですか」


「コミュニケーションという名の接待で後輩が休憩時間を削って上司をおだてるだけでしょうが。下手に海外の会社の要素を取り込んだって下の人が損するのよ。休日のゴルフだろうが宴会だろうが上司を持ち上げるだけのものでしかないのよ」


案内図の写真を撮り、被害者の位置と犯人が被害者を落としたという仮定に基づいて部屋を見ていくことにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

探偵は昼寝を欠かさない 茜色蒲公英 @kanohamarin

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ