不老不死レースで一番最初に死んでるのは誰!?

ちびまるフォイ

金に目がくらんだ死亡希望者

不老不死レース会場にやってくるとすでに人が集まっていた。


「あなたはどうしてこのレースに参加したんです?」


興味本位で参加者に聞いてみることにした。


「決まってんだろ! 大会の優勝賞金だ!!」


「この大会はメディアにも注目されますから名を売るチャンスなんですよ」


「私は別に……賞金はいらないです。使い道もないですし」


「え、じゃあなんで参加したの?」


俺はマッチのように痩せた男に声をかけた。


「不老不死になれば……病気の心配もないですから……」


「うわぁ……」


みなさまざまな理由で参加している。

そうこうしているうちにレースがはじまった。


『金に目がくらんだ亡者のみなさん!! レースのはじまりです!

 これからみなさんは全員不老不死になりますので、

 一番最初に死んでいる人が優勝です! 手段は問いません!


 よーーい、スター―ト!!』


開始のピストルで司会者は自分のこめかみを撃ち抜いた。

ぐったりと倒れた後で、何事もなかったかのように立ち上がる。


『というわけで、私も不老不死です。

 あと、サイトにも書いてますが、優勝者以外は不老不死解除しないのであしからず』


「えっ……!」


すでに配布された不老不死薬を飲んだ後だった。

サイトなんて見てないよ。賞金の使い道しか考えてなかった。


不老不死でこのまま一生孤独に暮らすわけにもいかない。

ますます優勝しなくては。


「はははは!! 悪いが優勝はもらったぞ!!」


声のする方を見上げると、会場で最も高い場所に参加者が立っていた。

何の躊躇もなく飛び降りた。


鈍い音とともに、体が砕け散って死んだ。



……かに思えた。


飛び散った肉片がどんどん体へと巻き戻りあっという間に復活。


「ダメですね。死んでないと優勝じゃありません」


「ちくしょーー!!」


飛び降り自殺を実行したものの、不老不死の回復能力を侮っていた。


「これだから知恵の浅い男は。こうすればいいのよ」


今度は別の女が持参した薬品などを一気に飲み干した。

色から毒だということは察した。


「うぐっ……ぐぅぅぅ!!!」


肌の色が変色して女は苦しみながら死んで、蘇って、また死んでを繰り返す。


「ど、毒で死ぬのはやめよう……」


「だれか!! ワクチンを持ってきてーー!!」


不老不死は死んだ直後にすぐ復活するので、終わらない毒との戦いを余儀なくされる。

こんな生き地獄だけは勘弁したい。


「これならどうだーー!!」


別の参加者は体に灯油をかけて火をつけた。

人間の体が燃える独特なにおいが会場全体に広がった。


「やった! これで死ねる!! 賞金は僕のものだ!!」


火の玉となった人間はキャンプファイヤーのようにいつまでも燃え続ける。


「あれ……?」


本人も違和感に気が付いた。

火で燃えるよりも早く不老不死の再生スピードが勝っているので

いくら燃えても、燃えても、ぜんぜん燃え尽きない。


「おおーーい! 誰か消化してくれーー!」



参加者はさまざまな方法で自殺を試みるものの、不老不死の力に完敗している。


試すべき死に方も考えておかないと、

毒死のような無限ループに入って事実上のリタイアになりかねない。


「そんな死に方ってあるのか……」


考えてみてもベストな死に方は思いつかない。

どんなに死んだところで、すぐによみがえってしまう。


いや、そもそも「死んだ人が優勝」ってルールもおかしくないか。


ちゃんと死なない限り賞金は受け取れない。

でも、死ねば賞金など受け取ることができない。


最初から賞金なんて渡すつもりなかったんじゃないか。


「おのれ……こうなったらどうあがいても、死んでやるとも!!」


騙された怒りを原動力にして、不老不死の頭はフル回転。


他の参加者の死に方をみるに不老不死は死んだ瞬間に再生を始める傾向がある。

死んでしまうと蘇るので、蘇らないように死ななくてはいけない。


「そんな方法が……いや、待てよ!?」


会場にはありとあらゆる設備も道具もそろっている。手段は問われない。

当然、外部から取り寄せることも可能。


俺のもとに届いたのは心臓を止める「仮死薬」だった。


「これなら、体を死んでいる状態にしながらも脳は生きているから脳死しない。

 もしかしたら蘇らずに済むかもしれない!!」


薬を服用すると、じょじょに体の力が抜けてその場に倒れた。

体は確実に死んでいるのがわかったが脳は覚せい状態。


音も聞こえるし、風景も見える。

不老不死の力で蘇ることもない、作戦成功だ。


他に同じ方法を行った参加者もいないので一番乗りだ。



死に続けていると、大会スタッフがやってきた。


「大丈夫ですか? お疲れさまでした、こちらへどうぞ!」


仮死薬の効果が切れてから起き上がる。


「いやぁ、起きるの遅くなってすみませんね。

 表彰のスケジュールも遅れちゃったでしょう。

 なかなか仮死薬の効き目がなくならなくって」


「いえ、表彰は時間通り……いやむしろ巻きでしたよ」


「あ! そうなんですか! まいったなぁ!

 こんなにも早く答えにたどり着ける人なんていなかったのかぁ!」


自分の発想をほめられたような気がしてつい照れてしまう。

スタッフに案内されたのは表彰台ではなく、会場の出口だった。


「え……? なんで? 賞金は?」


「何言ってるんですか、貴方は優勝してませんよ」


「はぁ!? 仮死したのは俺が一番最初だったはずだ!!

 さてはお前、賞金渡したくないから嘘ついてるな!

 だったら、優勝者は誰なんだよ!!」


「この人です」


スタッフの後ろから出てきたのは、最初に話したマッチのような細い男。


「私は……優勝したくなかった……不老不死のままがよかった……。

 こんなにお金をもらっても……使い切れません……」



「はぁ!? 嘘つけ!! 俺はずっと参加者を見ていた!

 こいつは1度も死んでない!! 俺の方が先に死んだはずだ!!」


「何言ってるんですか、この人をよく見てください」


スタッフは優勝者の幸薄い顔を見せた。



「趣味もない、賞金の使い道もない。ただ生きているだけ。

 社会の歯車として機能するためだけに、不老不死を求めて参加した。


 そんな人を、あなたは生きてるって言えますか!!!!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

不老不死レースで一番最初に死んでるのは誰!? ちびまるフォイ @firestorage

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ