第8話アジトへ


 「あ、兄ちゃん…今のは…」

 「ん?あぁ、おじさん。もう大丈夫だよ。」

 「いや、それはいいんだが…さっきの技はなんだい?」

 (さっきの技?あ、千鳥足のことか。)

 逆手に持っていた刀に付いている血を振り払い、鞘へとしまう。

 少しため息のような呼吸をして、素に戻る。

 「今のは肉体強化をしただけだよ。なんも変なことはしてないさ。」

 「肉体強化…それだけであんなに…うーん………いや、これ以上聞くのは野暮ってもんだ。さぁ乗れ。最後まで送り届けてあげるよ。」

 そう言って馬車へ乗り綱を手にする馭者。だが、事が起きればまた異変に誘われる。

 「おじさん。わた…僕はここでいいです。」

 「へ?一体どうしたっていうんだ?」

 「ちょっと用事ができまして、これから寄ってきます。なので、大丈夫です。」

 「そうか。まぁ気をつけてな。」

 「うん。おじさんも、それじゃ」

 こうして馭者と別れた僕は、草むらの中へと歩いていく。

 頭にある猫耳のおかげか。周りの音がよく聞こえる。意識を耳に集中すると、騒がしく楽しそうな声が森の奥から聞こえる。

 「…【雷剣】……千鳥足……」

 体全体に電流を流して能力向上を施す。そして飛び上がり、木枝を蹴って飛び移る。

 そして、もう一つの発達能力がここで発揮される。それは、「目」だ。高速で動く中、木枝がハッキリと見える。草むらに隠れていた、兎らしき小動物も捉えることが出来る。とんだ代物が自分の目に宿っていると思うと罪悪感でいっぱいになりそうだ。

 木枝の上を飛び移りながら高速移動していると、次第に聞こえていた騒がしい声も大きくなってきていた。

 そして、しばらくすると洞窟が見え、その中に賊の仲間がいることを目で捉えることが出来た。

 「あいつらか…ん?」

 騒がしい声の中…確かに聞こえる女の子の声。

 「ここから出してよ!ねぇ!」

 「ケヒヒヒヒヒヒっ!嬢ちゃんや、君はこれから人質なんだ。出すわけがないだろ?なぁ?」

 「助けて!誰か!」

 「こんな所で助けを求めても無理だ。誰も助けちゃくれんさ。ケヒヒヒヒヒ」

 (ぐっ…卑劣な。だが、どうやって助ければ…)

 木の上から、歯を食いしばるしか出来なかった。すると、

 「なぁ、お頭。こんなべっぴんさんをただただ人質にするのは勿体なくないっすかねぇ。」

 「あぁ、確かにそれもそうだなぁ。なら、楽しんじまうか。野郎ども、久しぶりのかわい子ちゃんだ。気絶はさせるなよ。」

 「「「「うぇーい!」」」」

 「い、いやぁ……」

 「さぁて、楽しませてもらうぜ…嬢ちゃんや」

 一つ一つの言葉が怒りへと変換される。

 (やってやる……全員殺して、助けてやるんだ!)

 

 「うっへへへ。さぁ、脱がさせて貰いますぜ」

 「い、いやぁぁぁああああ!!!」

 と、次の瞬間。

 ボォウ!と洞窟の入口を囲うように轟炎が発生。

 「な、なんだ?!」

 すると、燃え盛る炎から一つの人影が出てくる。

 「あの影…人獣種(ヒュ-ビ-スト)か?どうしてこんな所に…」

 その人影は腰にあった刀に手を当て、刀をスルリと抜く。それを両手で持ち、ゆっくりと歩いてくる。

 「おいおいおい、何のようだ?この人数に一人かァ?馬鹿にしてんのか。ヒャハハハハ。」

 下っ端なやつが最初に出てきた。

 「俺が最初に相手になってやるよ。来いェンゲッ」

 下っ端が1人出てくるやいなや、血しぶきを上げて倒れる。

 「んなっ」

 「なんだてめぇ!」

 下っ端達が各々武器を持ち、構え始める。お頭も立ち上がり、こっちに意識を向ける。

 「野郎どもやっちまえ。」

 「「「「おぉぉぉ!!!」」」」

 20人弱が一斉に襲いかかってくる。

 

 「……【雷剣】迅雷磁刃」

 

 目の前にいたはずが、姿を一瞬で消す。だが、それだけではない。消えたと認識した瞬間、いつの間にか空を向いていた。

 「…え?」

 先頭から順に血と頭が飛んで行く。それも一瞬で。抵抗もさせてくれない。

 ものの10秒弱で20人の軍勢は、いなくなった。

 「何なんだ…奴は一体。」

 賊頭が目の前に光景に唖然となっていたがその目の前に、部下を殺した当の本人が立っていた。

 「お前は……なんなんだッ…」

 「俺か?俺は、ジエンド・ガエリオ。通りがかった剣士だ。」

 「剣士だと!?そんな古臭い手段で俺の部下がやられただと?!」

 「お前もだけどな。」

 「ぐっ…」

 目の前で姿を消し、死角から襲ってくる刀に咄嗟に反応し、棍棒を当てた。金属の鈍い音が洞窟内に響き渡る。

 「よく受け止めたものだな。」

 「あいつらと一緒にするな。今度はこっちから」

 「いや、あいつらと一緒だ。」

 気づくと肩から腰にかけ、1本の剣傷が付けられ血が吹き出していた。

 (早さが尋常じゃねぇ…)

 「だから言ったろ、あいつらと一緒だって。」

 「ちょ、まっ…て…」

 何かを言い出す前に首を切り落とした。これで全部終わり、牢に入ってる女の子の無事を確認する。

 「だ、大丈夫?」

 「………え……あ、はい」

 「それじゃ、ここから出してあげるからちょっと待ってて。」

 そういって、牢の鍵を探すべく、賊頭の体を調べると腰にぶら下げてあった鍵を見つけることができた。それを鍵穴に差し込むと、「カチッ」と回すと音が鳴る。鍵が取れ、牢のドアを開けることが出来た。

 「さっ、ここから離れよう。」

 「え、えぇ」

 手を差し出し、立ち上がる手助けをして上げる。洞窟から出て、森の中へと入っていく。

 「これから君はどうする?」

 「え?……あぁ、私はこれから王都へ…」

 「へぇ!僕も王都へ行くところだったんだ。一緒に行こう。」

 「は、はい…///」

 そう返事をすると、顔を赤くして俯いてしまう。

 (ん?…どうしたんだろう。まぁ、王都に着いてからでいっか。)

 森をしばらく歩いて、道へ出ると王都へ向かって二人で歩きだした。

 

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剣姫は、異世界で性転換!? 天狗リンチ @Lynch

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