第7話:盗賊
嫌々ながらも馬車に揺られながら王都に向かう。路中、狼やゴブリンに襲われることもあったが無事に切り抜けてきた。初めて動物を殺す事になるが、そこまでショックなことではなく、意外と冷静だった。
そして、一日が立ち日の明ける頃にまた出発。まだしばらくかかると聞くのでとりあえず寝ることにした。その際、色々と記憶と向き合ってみる。
生活は、獲物を狩り、川では魚を取り、時には村へと出向き依頼を受けて報酬を貰っていたり、なんとも自由気ままな生活を送ってきたようだった。
趣味は特に無いが特技は多い。刀を使った剣技を多数持っている。火剣、水剣、風剣、地剣、雷剣。記憶にある属剣はこの五つ。この一つ一つに技があり、やり方もなんとなく掴めている。当の本人がこの記憶なわけで自分にも感覚が分かってくるのは少し怖い。自分の物ではないのに自分のもののような感覚。人のものを勝手に奪った気持ちになって少し複雑だった。
だが、すこし気がかりな技があった。「混剣」と考えていた剣技のようだ。どういう技なのかを記憶を探るがどれも失敗に終わり、属剣が暴走。自分に返ってきて深傷を負っていた。
それほどまでに強力なのか、背筋が凍る感覚だった。とにかくもっと記憶をたどっていこう。
それから日が昇り、頂点へ達しようとした時、馭者のおじさんが声をかけてくれた。
「おーい。にぃちゃん、起きんかい。」
「んー?どうしたの?」
体を起こし、荷車の前に行く。垂れ布を分けて顔を出すと、真横に御者のおじさんがいた。
「ほれ、見えてきたで。あれが王都エンベル王国だ。」
「おぉ…」
そこから見える光景はまさに城塞。囲むように城壁がそびえ立ち、その上に巨大な城があった。見慣れない光景に 感動の声が漏れる。
「ん?なんだありゃ?」
馭者のおじさんの声に目の前の異変に気づく。五つの人影が見えるが、こっちを見て歩いてくる。僕は、出していた顔を引っ込め、刀を握って待機する。
「おう、おっさん!元気してっか?」
「馬車を引くのも大変だねぇ。アヒッ」
「あ、あぁ、大丈夫さ。気遣いどうも…それじゃ、ワシは行かせて…」
「おぉっと。そいつはダメだ。ここで交通量を払ってもらわねぇとなぁ」
「こ、交通量?!そんな話は聞いたことがないぞ!」
と、なかなか苦労しそうな輩に絡まれたらしい。
(話を聞く限り相手は賊。影からして5人だが、聞こえる声は2人…ほかは黙ってるのか?)
すると、前から聞こえる二人の声とは別に砂を蹴る足の音が3人、この馬車を囲むように歩いて後ろに回ってくる。
さて、どうしたものか。この場合、速度を重視するか、威力を重視するか。ただ、威力を上げて破壊して倒したとしても、馬車に影響があるだろう。それを考慮した上で瞬殺出来る手段は、速度のみ。使う属剣は、雷剣だ。
(……雷剣…「千鳥足」…)
剣を抜き、意識を集中。
雷をイメージしながら、内なる闇を操っていく。この闇は誰しもが持つ闇。この闇を扱うことで、魔力となる。
魔力へと変換するまでに既に0.5秒。
(遅い…ッッ)
意識を極限まで高めイメージの雷を身に放つ。すると、体の中で電流が流れているのを感じる。微弱なものだが、筋力、瞬発力の向上には文句無し。これが雷剣の一つの剣技。千鳥足。
刀を右手で逆手に持ち、左手は腰へと回し、前傾姿勢で敵の顔が現れるのを待つ。
「んー?中には何があるのかなぁ?」
と、声が聞こえ、
「おやっさん。少しは私にも渡してングッ」
次の瞬間、敵の胸から血しぶきが吹き出す。
「んな…誰だてめンガッ」
言葉の途中で切り捨てられる。
「ア、アァアヒャンッ…」
後ろからもう来ていたもう1人は二人の残骸を見るや逃げ出そうとするが1歩逃げ出したところで切られた。
「ん?どうしたお前ら。何かいいの見つかったか?」
だが、1人が上げた声に、前にいた1人が気づきこっちに来た。
「どうしたんだ?何があったのか、しっかりみエグッ」
その1人が瞼を閉じた瞬間に切られていた。
「おい、おっさん。早く交通料だ。ここは、特等地だからなぁ…200万リエンだ。」
「そ、そんなお金は…出せませんよ。」
「ならどうするんだ?荷物を渡すしかないよなぁ?」
盗賊の1人が馭者のおじさんをカツアゲしようとしていた。
「そこのおじさん。馭者の方が迷惑がかかってるじゃありませんか?」
「あぁん?誰だテメェ。」
馬車の上から僕は声をかけ、意識を向ける。
「ふん。もうとっくのとんまにこっちが迷惑かかってんだよ。交通料も払わねぇで…なぁ?お・じ・さ・ん。アヒャヒャヒャヒャ。」
「なら、荷物をとるといいよ。ね?馭者さん?」
「え?あ、あぁ…」
そう聞くと、盗賊は後方へと歩み、
「ほぉ?それなら話は早い。まぁ、俺の連れがもう取ってるだろうがなッ……て、なんだこりゃ…」
死体が4体。馬車の後ろに重ねられていた。全て一太刀で終わらせられている。
「て、てめぇがやったのか!」
上を見るが誰もいない。
「あぁ、僕がやった。こうやってね。」
後ろから首を切られ、惨殺された。
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