第6話「んほおおおおおお!」

「んほおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」


 俺はオナニーに耽っている。ユカはもう座卓に夕食を並べてくれているのだが、そんなことお構いなしだ。俺は今、猛烈に射精したいのだ。昨日の夢でオカンから「あんたは中絶手術したらそのまま産声上げてたんや」と嘘か本当かよくわからない(というか、そんなもん嘘に決まっているが、いや待てよ実は本当なんじゃないか、いや、ある程度脚色を加えていて、虚実入り混じったオカンの激白だったんじゃないか――というか、そんなことに疑念を持つこと自体、俺が精神的な親不孝か、オカンの方が頭のイカれたスキゾな女だという帰結にしかならない)ことをのたまわれた時刻(そんなもん、何時何分か知るか、ボケ)くらいから、よし明日は(っていうか、明日っていうか、夢を見てる時間帯ならもう日にち変わっとるやんけボケ、死ね、これでPVが伸びなかったらアクセスした奴ら全員にHIV移すからな、しょーもない、カクヨムなんか読んでる暇があったら世の為人の為になるようなことをしろ)に固く決意を下したものだから、今や益々――そう! マスマスッ! マスをかくことに熱中しているのだ。

 妹はいつものごとく、新しいエロゲの仕事の練習を自室でやっている。


「んほおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」


 知らず知らず、俺も犬の遠吠えのように共鳴して雄叫びを上げてしまう。陰部を摩擦する手は殆ど亜光速に達している(そんなもん冗談に決まっとるやんけ、仮に亜光速でチンポこいてたとしたら、皮は摩擦熱でヤバいわ、腕は物理的にイワすわ、そんなもんハーバードのオナニー学者の論文でも「亜光速でチンポをシゴいたらどうなるか」――英語の原題があるとして訳してみよう、If……あー無理、Google翻訳でも何でもええからお前ら読者が勝手にやっとけ――とか見当たるわけないし、仮の仮にそんな実験をしたり、論文を発表でもしてみぃや、イグ・ノーベル賞必至やぞ、っていうかこの場合はイクッ!ノーベル賞か、はは、わっははははは!)。


「んほおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」


 俺は仰け反り、あたかも天皇陛下が外国の賓客を皇居でお出迎えなさるかのように面前にティッシュを待機させた状態で、更に摩擦を加速させていく。生前退位ならぬ、整然体位だ。あ、ごめん、不謹慎がすぎた。


「やめぇや……」


 ユカがご飯を食べながら何かイチャモンをつけてくるが、無視だ、無視。こんな万年浪人のブッサイクな幼馴染みの女なんぞ、オカズにもならんし、まして相手がいないからしょうがないユカ程度でも使える穴があるんやしテキトーに突っこんでみるか、って気分にすらならんし、なるわけがないし、なったとしても中折れするだけやし、更になったとしても多分こいつ性病持ってるし、聞く耳を持つだけ無駄、無駄。


「んほおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」


 俺は脳内アイドル・バーチューバーと盛り合っている妄想で、快楽の絶頂へのヤマノススメを挑み続ける。待っててくれ俺の、俺だけの美少女バーチューバー! 最ッ高の夏色プレゼント、今すぐセンド・フォー・ユー!


「ホンマにやめぇや……せめて風呂かトイレでやれ、殺すぞ、本気で殺すぞお前。人が飯をぅてる前でオナニーとか脳細胞が社会主義やんけ」

「ユカ! ユカ! ううっ……ユカ、中に出すぞッ!」

「いや、出さんでええから。お前の紅に染まった愛のない一人舞台に私を登場させんなや、アホか」


 そろそろか――


「んほおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」


 うっ、びゅるるるるるるるるるるっ!

 ふぅ……。


「うっわ、きっしょ……こいつ、ホンマにイキよった」


 ユカがグラタンのマカロニを口に運びながら、貴重な感想を述べてくれた。きっしょ、とは、カルカッタ語で最高、英語に訳すとアメイジング、となる。ユカは照れ屋なので、そういう風にいつも俺のことを褒め称えてくれるのだ。


「んほおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」


 まだ余熱と余力があるので、なんとなく妹にこたえてみた。


「いや、もうええやろ……」

「せやな。すまんすまん、さっさと片付けて飯にするわ」


 有言実行、賢者タイムのうちに、俺はさっさと片付けた。


「グラタン、あっため直そか?」

「おう、頼むわ。ありがとう。ああ、そや」

「何なん」

「お前もたまにはここでコイてもええんやで」

「……」


 ユカは返答もなく、俺のグラタンを持って立ち上がり、台所のほうに向かっていった。


「んほおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

オレの妹が現役JCでエロゲ声優やってます。 文芸サークル「空がみえる」 @SoragaMieru

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ