木の下の人々

@andy-t

第1話

 そこに立っている一本の木に、晩秋の斜陽が長い影を映し出している。

この影は昨日と同じではなく、明日も同じではない。

木の下を往来する人々もまた同じではない。比べる枝を持ち、羨む根を持つ。

それは自身を成長させるが腐らせもする。

自分より勢いよく伸びた枝、陽当たりの良い葉、水々しい土壌には、

「あぁ、なんて素晴らしいのだろう。それに比べて、自分は何もないではないか。」

と心奪われ自信を卑下し、枯れて風に運ばれ眼下に広がる落葉を見て、

「あの様には、まだなりたくない。あれに比べればまだ良いではないか。」

と蔑み、自信を納得させる。周りを気にするがあまり、自身の影など気付きもしないのだ。ましては、あの一番陽当たりの良い葉が受けている風の強さなど知る由もない。


 この木ですら、勢いよく成長し陽射しをより多く受ける為に枝葉を広げ、大地に根を張り巡らせ、一番その身に青々とした葉をまとう真夏の正午、自身の幹も影も見えはしないだろう。しかし季節が変わり、落葉の上に再び自身の幹と影を見るのである。

 人々もまた、時が経ち躓いた際、自身の足元を見るのであろう。

そして、その後に見る落葉はあの時とは違って見えるのではないだろうか。


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